市民ごみ大学セミナー2001 実施報告


第二回 100円ショップのからくり
“ 安ければいいの ”ゴミ問題を地球的視点から問い直す

開催日 2001年10月20日

 市民ごみ大学セミナー2001 第2回目を10月20日に開催しました。
昨今急速な価格低下が多くの商品でで進んでいます。その代表格が“100円ショップ”です。これが衝動買い、使い捨てを助長しリサイクルを困難にしています。
 今回はこの様な低価格が可能となる仕組みや100円ショップ、更にその裏にある国際経済の実態に焦点を当ててみました。
 講演は国際的な経済の仕組みとその問題点。新品原料の価格の急落と世界的規模のリサイクルシステムの崩壊、そして私たち市民がどの様に対応すべきかまで、盛りだくさんな内容でした。
紙面の都合上、講演の一部を紹介します。

 なお、講演全体や付属資料を含めて講演録(頒布価格
500円+送料)として完成しました。
 ご希望の方は セミナー2001 講演録を参照下さい。



報告 100円ショップの実態

清水 直子 さん(フリーライター)

  雑誌「通販生活」の『100円ショップの謎』を執筆する目的で業界を取材した。不況・デフレの影響下、多くの企業が業績悪化に苦しんでいる中で、勝ち組としてマスコミに紹介されている。その実態はどうなっているのだろうか。
  先ず、100円ショップで種々な商品を購入し、他のお店のものと比較してみた。その結果と取材から品質にはそれほど問題は見つからなかった。

 驚くほど安く販売できるのは次の理由からである。
@100円ショップで売るために作られた商品
  量は少ないが中身はスーパーなどと同じもの。
A多量に購入するために安くなる
 乾電池や蛍光灯など製造メーカーに問い合わせた結果、通常品と全く同じとのこと。
  特別に作ればかえってコストが高くなる。
B多くが中国で生産され桁違いに安い賃金や環境コストの安さに起因している
C工場の空いた時期に大量に発注することで安く仕入れられる

  100円ショップだけではないが、安いものは“消費者のため”と言えるであろうか。 ゴミ処理費や環境負荷の増大、国内の製造工場の閉鎖により、多くの人が失職して収入の道が閉ざされるなどマイナス要素を考慮したら大きな問題を抱えていると言える。

スピーカー紹介
  市民派地方議員向けのミニコミ紙『ACT』や労働運動の情報誌の編集部を経て、現在フリー。
 環境・地方自治・健康・働く女性の抱える問題などをテーマに『週刊金曜日』、『世界』、『通販生活』、『日刊ゲンダイ』などに執筆。共著に『闘う首長』(教育史料出版会)、『がんばれ美術館ボランティア」(淡交社)がある。
 



講演 安ければいいの?
ごみ問題を地球的視点から問い直す

田中 優 さん(未来バンク代表)

 私は江戸川区で地域活動としてリサイクルをやっていました。最初はガソリン代や参加者のおやつなどを出してもお金が残り、寄付もできました。ところがリサイクル品の価格が急落しました。原因は新品原料の価格が暴落して、競争関係にあったリサイクル品の価格も急落し長く続いたリサイクルシステムが成り立たなくなりました。
  新品原料(=輸入原料)がなぜ安いかを調べた結果、これからお話しすることが分かりました。

1.安い輸入品の向こう側

(1)タイの原料生産
 タイは森の国と呼ばれ60年までは国土の60%が豊かな熱帯雨林に覆われていた。ここでキャッサバを栽培するために森は切り払われ、大地が剥き出しにされました。キャッサバは栄養価が高い優れた食糧ですが、タイの人の口には入らずにヨーロッパに家畜の餌として輸出された。
 ところが社会主義国の崩壊で東欧諸国が自由主義圏の仲間入りをした。東欧諸国からの輸入を増やすため砂糖大根を買い、絞り滓が餌となりました。その結果、キャッサバは輸出できなくなり、代わって植えられたのがユーカリ。
 ユーカリの葉から出るユーカリオイルは殺菌力が強く土壌の細菌を殺し、旺盛な成長力が地中の栄養素や水分を多量に吸い上げ土地は痩せてしまう。現地では悪魔の木と嫌がられていますがお構いなし。成長すると伐採され紙の原料として安く大量に日本に輸出され、このパルプが紙のリサイクルシステムを破壊してしまった。

(2)アブラヤシのプランテーション
 マレーシヤやインドネシアでは豊かな熱帯雨林がアブラヤシのプランテーションになっている。アブラヤシの畑は南国情緒豊かな森に見え、そこには“私たちは地球緑化を行っています”との看板が立っている。油を絞る工場を中心に1つの市ほどの面積がプランテーションで、これが続いて作られている。
 油は精製すると無味、無臭、無色で、ごま油やオリーブオイルの増量用として揚げ物からショートニング、更に工業製品の原料に使われます。これが桁違いに安く、使われていた魚油を駆逐し、油のリサイクルを崩壊させた。ここで働く人は貧しく、不法入国したインドネシア人が家族単位で働き、子供は学校に行けず働いている。

 先進国では70年代に製造・使用が禁止されたDDT、BHC、除草剤の2,4Dが使われ、農薬散布は女性や子供の仕事とされ、防護服もなくTシャツ姿でやっています。散布した農薬に汚染された水が彼らの生活用水となり、NGOの調査ではここで働く90%の人に農薬の影響が出ているとのこと。

(3)フィリピンのバナナ
 ミンダナオ島は肥沃な土壌でプランテーションのバナナはたわわに実っているのに、飢えが原因で多くの人が死んでいる。ここに住んでいた先住民は追い立てられたり、殺され土地はプランテーションに奪われてしまった。
 人々は山に逃げ込むか、プランテーションで働くかの道しかない。バナナは切り分け、消毒、箱詰め、更に港まで運搬し船積みして、12Kg入り1箱100円、ここから肥料や農薬代が引かれ利益は殆どない。

2.破壊的安さの要因

(1)途上国援助と債務の肥大化
 発展途上国に経済援助が行われてきた。援助には無償援助と有償援助があり、有償援助は低利での貸付であり、返済しなければならない。また、オイルショックの結果中東に集まった膨大な資金が先進国の銀行を経由して融資先を途上国に求めた。途上国でこの資金で生産する物は原料であり、返済資金のために原料輸出に頼ることになる。
 資金の流れは80年代の前半までは先進国から途上国に移転していたが、80年代後半からは途上国から先進国への移転が多くなった。
途上国に届けられる資金より返済する資金が上回ったのである。これにより債務(借金)は肥大化し債務(サラ金)地獄にはまってしまった。
82年に破綻したメキシコが債務免除を求める『デフォルト宣言』をしようとした。

(2)IMFと世界銀行
 IMF(国際通貨基金)と世界銀行(国際開発復興銀行)が『デフォルト宣言』をくい止めるために新たな融資をした。この融資は更に債務を増やすことになった。原料の種類は主要な物で30種ほど、これを120ヶ国の途上国が競って輸出した結果、供給過剰を招き、暴落に繋がった。

(3)構造調整プログラム
 IMFや世界銀行が新たな融資の条件として構造調整プログラムを債務国に課した。まず財政赤字を改善するための財政支出削減。これにより福祉・教育・医療費が削減され、多くの人が飢えることになった。
 次に国際収支の改善のため通貨の切り下げと輸出原料の生産が勧められました。通貨の切り下げは輸入食料の暴騰を招き、返済のための外貨獲得のための輸出作物への転換は食糧の自給を妨げて深刻な飢餓が発生した。
 以上の様な世界経済の仕組みが、極端に安い原料や製品を生み出しているのである。これが途上国の人々を苦しめ、リサイクルシステムを崩壊させゴミ問題を大きくしていると言える。

 物が安い原因として生産の場面にスポットを当ててお話をしていただき、最後に「教養として知識を得るのでなく、身近なことから行動を起こさなければならない」との言葉を参加者に投げかけ、講演を終えられた。
スピーカー紹介
  地域の市民団体「グループKIKI」の活動をとおして、地域のリサイクル問題が地球規模の南北問題に直結していることに気づき、リサイクル・原発・地球温暖化問題などの活動に携わる。市民に分かりやすく伝えつつ市民中心の運動をめざす。
 また「未来バンク」を設立し、自然エネルギーや地域循環型の経済の可能性などを模索している。著書に「環境破壊のメカニズム」「どうして郵貯がいけないの」「日本の電気料金はなぜ高い」他がある。

  この報告を書くにあたり流通について調べてみた。ここでも驚くべきことが分かった。
100円ショップなどの勝ち組といわれる企業の多くが店長以下、総ての従業員をパート化して人件費を大幅に削減しているのである。
賃金の安さや不安定な雇用も問題であるが、さらに厚生年金、健康保険、雇用保険などの企業負担まで逃れて安売りが行われている。こうした様々な事(努力?破壊?)が100円ショップを支えている。
  田中さんのお話の内容を含めて価格破壊にとどまらず、世界規模での環境破壊、社会システムの破壊、更に人権問題として認識しなければならない。


☆ お知らせ

 このセミナーの講演録が完成し、こちらで案内しています


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