市民ごみ大学 セミナー 2002 実施報告


第3回 ごみを売らずに サービスを売る!
開催日 2002年12月 8日

講演される倉坂秀史さん

  当日はあいにくの曇り空(夜から大雪に)でしたが、環境庁出身、千葉大学経済学部助教授の気鋭の経済学者・倉坂秀史さんの講演とあって、遠くから駆けつけた参加者もあり会場の小金井商工会館・萌え木ホールは大賑わいでした。

 お話は講師の近著 「環境を守るほど経済は発展する」 に沿って進められました。

 

 

「環境を守る」とは? 「環境問題」とは?

  学生に「環境を守る」って、どういうこと?…と訊ねると「自然を守ること」「自然に手をつけないこと」といった答えが返ってくる。
では、「人間はいないほうがいいのか」といえば、それはおかしい。バランスの問題だ。
そうした意味で「環境」、「環境問題」をまともに定義している環境の本は意外と少ない。どうしても不確かになるか、うさん臭くなるか…これでは実際に社会を動かしている人の耳には届かない。

  そもそも「環境」とは「自然からの恵み」である。
「自然」とはその字の通り、自ずからなる(人間が設計していない)ものである。
私たちにとっての環境とは、資源・エネルギーの供給源(食物や燃料)であり、不要物の引き受け手(例えば海…二酸化炭素を吸収している)であり、生活の場(人が住むための陸地)を提供してくれるもの…である。

  環境に対して我々人間が影響を与える場合もある。
例えば、二酸化炭素。地中の炭素を掘り出し燃やし始めたのは、産業革命(当時は石炭、後に石油)からである。
それに伴い二酸化炭素の濃度は増大し続けている。
空気中の二酸化炭素の濃度は産業革命当時はおよそ280ppm、2000年でおよそ369ppmとなっている。産業革命当時に比べると、現在は、大気中の二酸化炭素濃度が2〜3割も濃くなってしまっているのである。

  では「環境問題」とはなんだろう。まとめてみれば
@人の活動に起因する
A人の活動に悪影響を及ぼす
B物理的自然的環境が介在する
つまり「環境問題」とは「ある人の活動が、物理的自然的環境(=人間のコントロール外で機能する物理的自然的存在)を媒介として、他の人の活動に悪影響を及ぼす問題」といえる。

  こうして整理すると、何のために「環境を守る」のか、はっきりしてくる。
ひとつには、個人の健康で文化的な生活を維持するということ、もうひとつは、社会制度や文化が次の世代に引き継がれるようにすることである。
  前者は1970年代に認知されている。四日市裁判がいい例。後者の代表的な例は、イースター島である。
イースター島でここに住んでいた人間が滅びたわけではないが、文字や言語が継承されず、古い文字が解読できないし、モアイ像の文化も断絶してしまった。島にはかって緑豊かな森林があったが、それがなくなると共に文明が断絶してしまった。
それと似たことは、他の地域でも起こっているのである。

 

環境の限界は見えているか

  資源がないのなら他の地域への移動する、他の地域から持ってくるというこれまでのやり方では回避できない、地球規模の環境の限界が見えてきているのである。
無限のエネルギー(核融合など)を手にするという考えは幻想である。化石燃料は今後数百年のスパンで枯渇に向かう。
  また、もしも理蔵されている化石燃料をすべて燃やしてしまったら、それにともなう二酸化炭素濃度は2,000ppmを超てしまう。
これは、人類が過去体験したことのない値である。

  こうしたことを踏まえると、枯渇性資源がまだ残っているうちに、その需要を抑制することが重要である。
これからは、更新性資源の自然エネルギーを十分活用していくことが大切である。(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱、波力など)

 

新しい経済学 サービスの缶詰論

  経済活動の究極の目的は、どれだけサービスを得られるかであり、サービスを生み出すために物的資源に人の手が加わり、人工物(物質的財)が生み出される。(例としては時を知らせるサービスを提供する時計という物質的財)

  このような物質的財をサービスの缶詰ととらえると、できる限り資源投入と不要物を減らすことは、利潤を減らすことと矛盾しないことがわかってくる。つまり、環境負荷を減らしつつ利潤を増やす「共益状態」を拡大するためには、「サービス」に着目した経済学にしていく必要がある。

  また、消費者は中身のサービスだけを受け取り、缶は、生産者の責任で処理されるべきである。

 

環境経済政策の展望

  将来的に経済活動を行っていくためには、人体の持続可能性(個人が健康を損なわないよう大気、水などを適性な状態に保つ)と社会の持続可能性(文化水準、技術水準などを含む社会の制度を次の世代に引き継ぐ)が確保できるように、経済活動からの環境負荷の総量を抑えることが重要になってくる。
このための政策=環境経済政策を行う必要がある。

  まず、持続可能性目標を設定し、自らの事業活動に関する環境情報を明らかにしつつ、自由で健全な競争をしながら、利潤を追求していくこと。
経済活動の新しい目標として、環境効率があげられるが、これは、資源消費を半分にして、生み出すサービスは2倍にできれば、環境効率は4倍(ファクター4)となるというもので、すでにヨーロッパでは認識され、ベースになってきた。

  製品コストに環境コストが含まれるOECDの拡大生産者費任の考えを、世界経済のルールに組み込むことが重要である。
すでに、物を売らずにサービスを売る動き=サービサイズが具体的に広がってきた。例えば、農薬を販売してきた会社が、害虫駆除というサービスを売る会社になると、よりたくさん農薬を売るのではなく、少ない農薬で害虫を駆除することで利潤を得ることになる。

  同様に…塗料の販売→塗装サービスの販売、家具・カーペットの販売→内装サービス、紙・コピー機の販売→文書管理サービスの販売に…といった転換が行われている。
エネルギーサービスも強カに広がりつつある。

  新しい政策課題を実施するためには、国の環境行政と資源エネルギー行政は、統合すべきだが、当面ほ地方分権を背景に、自治体が独自の政策を始めることが期待される。

 


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