ごみっと・SUN54号
● 特集
揺れ動くペットボトルリサイクル

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 石油の高騰が続き、廃プラスチック類は資源としての価値が高まる一方である。
経済成長が著しい中国などでの需要が急速に増えて使用済みペットボトルを買い付けにくるため、国内のリサイクル業者はペットボトルの確保が難しくなった。
ペットボトルが売れるようになったため「容器包装リサイクル法(容リ法)」を離脱する自治体も後を絶たない。

 容リ法では飲料メーカーなどの事業者が払った委託料でペットボトルのリサイクルを行ってきたが、施行されて9年目の今年度初めて大半のリサイクル業者が有価で落札、国内外でペットボトルが有償で取引される時代に突入した。
迷走するペットボトルリサイクルを追った。

中国への輸出の影響で落札価格が降下
 容リ法では、飲料メーカーなどの事業者がリサイクル費用を指定法人である財団法人「容器包装リサイクル協会(容リ協)」に預け、その委託料を使ってリサイクルを行う。
市町村が収集した後、リサイクル施設で異物を除いて圧縮梱包したベール(約1b四方の固まり)は、容リ協が入札で決めたリサイクル業者に引き渡される。
業者は容リ協から落札価格分の金額を受けとることになっている。

 処分場の逼迫という止むに止まれぬ状況下にあって、容リ法は激増するペットボトルの受け皿づくりでもあった。
97年から回収が始まり、容リ協が自治体との契約で引き取るペットボトルの量は年々増え続けた。

 だが、状況が変わって04年度19.2万トン、05年度17.7万トンと近年になって減り続け、06年度は14.4万トンとさらに減少したが、使用済みペットボトルの排出量が減ったわけではない。
今年度の市町村の分別収集計画量は28.5万トン、約半量は市町村からの独自ルートでリサイクルされ、そのうちかなりの量が中国に輸出されるとみられている。

 国立環境環境研究所などの協力を得て調査をした結果、ペットボトルリサイクル推進協議会は
04年度に19.5万dが輸出されたと推計した。

 同協会がJRやスーパーなどの事業者300社(全事業者の80〜90%)に行ったアンケートによると、04年度の事業者回収量は8.1万トンになった。
19.5万dの海外流出分には事業系だけでなく、市町村で回収されたものも相当あるということだ。
国内で排出された使用済みペットボトルは売却価格`40円程度で中国に渡って、安価な人件費のもとでぬいぐるみの中綿などに加工される。
しかし、一方通行のリサイクルでは、やがてはごみになってしまう。

 こうした影響を受け、落札単価が下降したことを考慮して、容リ協は今年の入札に際して昨年度まで認めていなかった有償(リサイクル業者が協会に料金を支払う)入札を認める方針を提示した。
1月に行った応札の結果、落札単価はマイナスに転じ、大半のリサイクル業者が容リ協にお金を払うという「有価での落札」になった。

 全国平均落札単価をみると、昨年度がd当たり13,600円、今年度(−)17,400円でその差はd当たり30,900円の開きがある。

 都道府県別にみると、落札量ゼロの鳥取県を除いた県平均単価で、プラスは和歌山県のキロ1.7円、沖縄県の13.8円の2県だけで、ほかはすべてマイナスだった。県平均の最高額は福井県の(−)33.9円、石川県の(−)31.9円、滋賀県の(−)28.3円と続く。
最も高い金額で落札したリサイクル業者は(−)61円で、中国の40円をも上回った。

 詳しい自治体別の落札単価は、容器包装リサイクル協会のホームページ参照

ペットボトル争奪戦
 お金を出しても落札できればまだいいが、落札できなかった事業者もいる。
その数は昨年度12社、今年度は15社に増えた。リサイクル業者には依然厳しい状況だ。

 これまでペットボトルのリサイクルは、ペレット(粒状)やフレーク(薄片)にして作業服や卵パックなどの再生品を作る「マテリアル(材料)リサイクル」だけであった。
しかし、一昨年に帝人ファイバー(山口県周南市)とペットリバース(川崎市)の2社が開発した「ケミカル(化学的)リサイクル」が加わった。
「ボトルtoボトル」と呼ばれ、廃ペットボトルを再びペット樹脂に戻すことができる技術である。
(ごみっと・SUN45号、ペットボトルの新しいリサイクル、「ボトルtoボトル」)参照。

 約100億円もの巨額を投じた設備を有する帝人ファイバーは、04年に本格的に再生ペット樹脂の生産を開始したが、05年度分の落札がゼロとなり昨年7月に稼動を停止した。
また、国が40億円も融資したペットリバースは、負債を抱え同年9月東京地裁に民事再生手続きの申し立てをした。なぜ、1年足らずで止まってしまったのか。

 容リ法が制定されペットボトルの収集が始まった一時期、市町村の回収量が想定を上回り、リサイクル能力とのミスマッチが社会問題になった。新聞やテレビに山積みになったペットボトルが度々登場したのもこの頃だ。

 その後、リサイクル業者の参入が相次ぎ、98年度の29社から05年度には48社まで増えることで問題は解消された。
しかし、02年以降はリサイクル能力が上回り、施行当初とは逆のミスマッチが広がった。
さらに、中国など海外への流出が追い討ちをかけている。

 肝心の原料が確保できなければ事業は成り立たない。
05年度は多くのリサイクル業者が設備の稼動を「止めるよりマシ」と低価格で入札した結果、落札価格は前年度の約3分の1程度であるキロ13.6円まで急落した。
2000年の71.4円に比べると実に5分の1以下の値だ。

 昨年は高めで入札した結果、1本も取れなかった帝人ファイバーは、今年度はキロ(−)14円で入札し11,215d落札した。11,915dの環境開発(福岡)に次ぐ2番手の落札量だ。
しかし、処理能力6万dには遠く及ばず、十分な結果とはいえない。

 搬入したペットボトルを溜めておき4ヶ月間だけ稼動させ、技術をブラッシュアップさせる予定だ。
また、それまでの指定法人ルートだけでなく、今年度は「買ってでもやる」と自治体からの独自の入札も決めた。
同社原料重合事業部の佐藤和広さんは「必要な技術と自負し止める訳にはいかない。さいたま市や鎌倉市など『ボトルtoボトル』を指定する自治体もでてきた」と話す。
稼働率が思うように上がらない同社では海外へのプラント輸出を含む新たなビジネスモデル展開の検討も始めているという。

独自ルートに切り替える自治体
 分別収集したペットボトルを指定法人ルートで引き渡しても、自治体は対価を得られない。
その上、容リ法の決まりで、本来なら事業者が負担すべきリサイクル費用のうち、零細事業者の分は自治体が負担しなければならない。
財政が逼迫する中、市民がせっかく分別し税金を使って集めたペットボトルだけに「売れるものなら売りたい」と方針転換する自治体が出ても不思議ではない。

「G30」を掲げてごみ減量に乗り出した横浜市は、昨年4月から全市でペットボトルやプラスチック製容器包装などの分別を拡大した。
それまでの5分別7品目から10分別15品目に分別収集品目を拡大したことも手伝って、2010年までの目標に掲げた30%減量(01年が基準)も初年度の05年度に達成(34%減)された。
ごみっと・SUN48号、G30に取り組む横浜市の容器リサイクル参照。

 市は集めたペットボトル9000〜1万dを05年度までは全量を指定法人ルートで引き渡してきた。だが06年度は方針を替え、市内にある4ヶ所の選別・保管施設のうち3施設分の6000〜7000dを売却することにした。
国内の売値は`20〜30円が相場といわれる。市は契約を結んだ5社に`44〜55円(平均48円)で売却することになった。3億円以上の収入になる勘定だ。
ちなみにアルミ缶とスチール缶は年間6〜7億円の収入がある。

 売却への方針転換は財源確保が理由ではないか、と思われるが、資源循環局の金子正一家庭系対策課長は理由の第一に「履行の確認」を挙げる。
 「容リ法では分別した資源物がどのようにリサイクルされているか分からない。独自売却なら業者も選べて確認ができる」と説明する。

 市は05年に提出した国への要望でも、市町村が関与できるような制度を求めてきたという。
確かに容リ法でのリサイクルは入札も含め指定法人に負う所が大きい。だが、それまで業者に処理費を払っていた「逆有償」が解消したのは、容リ法でしくみが整ったおかげではなかったか。

 売却に先立ち、横浜市は関東一円のリサイクル業者にアンケートを実施した。帝人ファイバーとペットリバースからは購入の問合せがあったという。
国内で循環させる業者に限定し、再商品化するまで報告をさせるという条件も示した。

 中国への輸出に批判が高まる中、国内リサイクルを売却の条件にする自治体は増えている。
しかし、それを確実にするには、書類や立ち入りなど産廃のマニフェストに相当するチェック体制が欠かせないが、今はない。
市民としては、自治体が業者に売却したペットボトルの行方を情報公開させることが必要だろう。

 従来の指定法人ルートに残した戸塚資源選別センター分のペットボトル2,750dは帝人ファイバーが(−)15.5円で落札した。
1施設分は指定法人に残した理由を「民間売却ルートは流動的で先がみえない」と金子課長は説明する。

 横浜市のように独自ルートと指定法人ルートという“二足の草鞋”を履く自治体は多い。
ある自治体職員は「原油価格の変動に左右されるため、有償と逆有償の境は微妙」という。
今は原油価格の高騰でペットが有償で取引されるが、価格が下がれば価値も急落する可能性があるからだ。
もしものために、安全パイである容リ協との関係を切らずにおきたいという、自治体の本音がみえる。

揺らぐ「国内循環の輪」
 今年度の入札に関して、容リ協は手法の優先順位などをあえて設けず、業者間の公平な競争を堅持する方針で臨んだ。
その結果、平均落札単価は`(ー)17.3円だったが、同協会のペットボトル事業部は「予想以上に金額の幅が大きくなった」と話す。

 メーカーなどの事業者から預かった委託料をリサイクル業者に渡す役割の容リ協に、初めて相当額のお金が入金されることになる。
気になるのはその行く先だ。同事業部は「市町村に支給する方向で考えている。配分や支給方法については、改正審議が落ち着いてから環境省と相談の上決めたい」という。

 どの程度かは未定だが、容リ法の改正を待たずに市町村にお金が戻ることは間違いないようだ。
 また市場原理で、リサイクルされ有価で売れるのならば、アルミやスチール缶のように容リ法の運用枠からはずすことも考えられる。
だがこれに関しては「有償入札は初めてのこと、数年の観察期間が必要」(同事業部)と慎重だ。
確かに石油の高騰、海外流出という状況はいつまで続くか未定である。

 今年3月、リサイクル業者約40社は「ペットボトル再商品化事業者協議会」を設立した。
本来ならば競争関係にある事業者同士が、大同団結して海外への流出を防止しようという。
国内では、落札できなかった事業者だけでなく、契約者数46社のうち半分の事業者は稼働率が低くなっている。

 しかし、中国など諸外国でペットボトル生産量が延び、自国内で回収するようになれば、日本から買う必要がなくなってしまう。
中国の需要が途絶えた時に国内の業者が壊滅していれば、施行当初のように廃ペットボトルが
リサイクルされず山積みになってしまう可能性もある。容リ法でせっかく根付いた循環のしくみが、自治体の容リ法離脱によって壊れかねない。

 さらに、ボトルtoボトルの技術によって国内で資源が循環されれば、原料の石油は不要になるはずだが、国外に流出してしまえば新たに輸入せざるを得ない。

 ペットボトルリサイクル推進協議会の新美宏二事務局長は「国際競争を止めることは無理だが、苦労して集めたペットボトルが国外に出るのは見過ごせない。
事業者に力をつけてもらって、国内で質の高いリサイクルに回るようにして欲しい。国の監視や市町村が行方を把握する必要がある」と話す。

 汚れたペットボトルは「バーゼル条約」(注)に違反する廃棄物とみなされる。
環境省は2005年1月、市町村に廃ペットボトルの分別や洗浄が適正かどうかリサイクル業者に確認するよう、通達を出した。不適正な輸出を防ぐ水際でのチェックを強化するため、税関との連携も始めている。

 容リ法は事業者にリサイクル費用の負担を義務付けた法律だ。施行時の、事業者が負担する委託費用は97年度d10万円だったが、今回のような状況では中身メーカーやペットボトル製造メーカーの負担はもはや無きに等しい。
今年度分は市町村の分別収集計画量に合わせてすでに支払済みだが、有償入札だったため、事務経費を差し引いて事業者に大半が返還されるという。

 事業者負担がほとんどなくなったペットボトルの分別収集や選別保管をいつまで自治体の税金で負担させるのか。
自治体の中には負担増を避け未だに店頭回収など拠点だけで回収する市町村もある。

 海外流出を止めるためにも、事業者が収集や保管費用を負担するべきだ。
デポジット制の導入などで消費者の返却を誘導すれば、回収率はさらに上がるに違いない。
生産量50万dのうち約20万dが焼却や埋め立てに回っているという現実も見逃してはならない。

(注)有害廃棄物の国境を越える移動及び その処分の規制に関するバーゼル条約
1989年3月、スイスのバーゼルにおいて作成された、一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した条約


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