ごみっと・SUN52号
岩手県・葛巻町

地域の資源をエネルギーに変える
ハットリ・モリゾーが行く !
全国各地の
前向きな
環境の取組みを
紹介します。


 第1回目は、風力、太陽光、バイオマス木質ペレットなど地域に賦存する資源を活用して、エネルギーの「地産地消」を目指している岩手県葛巻町を取り上げます。

高原の強風が生み出すエネルギー
 葛巻町は盛岡市から北東に約70kmに位置し、ほとんどが標高400m以上という山間地帯で、
86%を緑豊かな森林が占めています。
訪れた11月、北国の早い夕暮れ、標高1,100mの袖山高原に立つ3基の風車が、粉雪交じりの風を受け白い羽を回していました。年間風速は毎秒8m、冬は特に風が強く、夏より3〜4割強い風が吹きます。
3基の風車が生み出す1200kwの電力は900世帯分に相当します。

 風力発電のきっかけは、町の牛乳を扱う生協の職員が農協に話をもちかけたこと。
1998年に町議13人がデンマークを視察。
職員もケンジ・ステファン・スズキ主催の「風の学校」で自然エネルギーを勉強するなど情報を集めました。
一方で、標高1,100m級の高地に牧場を開発してきたことが幸いし、普通は2年かかる風況調査もすでに調査済み、建設資材を搬入する道路や送電のための電線といったインフラも整っていました。

 上外川高原牧場には、高さ60m、翼の直径が66mもある世界最大級の風車12基が4kmにわたって並んでいます。
出力は1基1750kw、12基合わせて年間発電量は5400万kwh、1万6000世帯分に相当します。
町は土地を提供、電源開発鰍ェ事業会社「グリーンパワーくずまき」を設立して建設(建設費47億円、経産省が30%補助)2003年12月から稼働しています。

 好調にみえる風力発電にも問題があります。
売電の売り上げは初年度一括して1億円が町に支払われ、固定資産税や法人税の収入、さらに、観光収入も大きいというものの、生み出した電気は直接町民に送られる訳ではありません。

町民の声を反映した「新エネルギービジョン」
 話は戻りますが、町の「新エネルギービジョン」には、策定の際に行なったアンケートが大きな
影響を与えています。
それは、新エネルギーを道路の融雪や防犯灯の電源に活用、畜産環境問題を新エネルギーの
導入で解決を望む声や、第3セクターなど町や住民が新エネルギーの事業に積極的に参加すべきという町民の声でした。

 策定委員会では風力や太陽光などを推す新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に対し、町はバイオガス発電を加えるよう主張、99年3月に策定された新エネルギービジョンの主要な柱となりました。

 環境エネルギー政策課の下天广(しもてんま)浩さんは「他のインフラではなく、地域にある資源を使うのが新エネルギービジョンの大前提」と話します。
現在、エネルギーマップを手に、風力からペレットストーブまで巡ることができる次世代型エネルギー博物館・葛巻町には、全国から年間約50万人もの見学者が訪れます。
自然エネルギー以上に地域に根ざした町民と行政のあり方に学ぶことは大きいかもしれません。

日本一の牧畜の町が挑むバイオガス
 葛巻町には、約8,700人の人口より多い13,000頭の乳牛がいます。
牛の糞尿をエネルギーに変えるバイオガスシステムは、総面積1,100haという日本一の公共牧場、葛巻高原牧場内で2003年に稼働しました。最大37kw、20〜30世帯分の電力を生産する
能力を持っています。

 施設は主に、メタン発酵槽、ガスホルダー、発電施設(コジェネユニット)の3つ。
関東地方の酪農家から預かる子牛200頭から出る13トン/日の糞尿と高原内のレストランなどの生ごみ100s/日をメタン発酵槽に入れます。固形分は堆肥化施設へ送ります。
37度の発酵槽で約30日間滞留させて発生したバイオガスをガスホルダーに貯め、このガスを用いて発電機を回すと電力と余熱が得られるという仕組みです。

 (社)葛巻町畜産開発公社の小山田 隆さんは「平均12kwの電力は施設内で使い、熱は発酵槽の温度を保つために利用する」と話します。
発酵槽から排出された窒素やリンなどが溶け込む約10トンの廃液は牧草地に撒き、残りは浄化して河川に放流しています。

 糞尿はエネルギー密度が低く長距離を運ぶのは割が合いません。発生した場所に近いところで利用するのが効果的です。
「町の酪農家は250〜300軒、一軒平均40頭。
4〜5軒200頭ぐらいの単位で小さなプラントを造りたい」(下天广さん)資金面などの課題を超え、牛の糞尿から多くのエネルギーを生み出して欲しいと思います。

期待の木質バイオマスと国への要望
 町が最も期待するのは、豊富な森林資源を活用した木質バイオマス発電です。
葛巻高原牧場の一角に月島機械鰍ニNEDOの出資で05年9月から、実証実験が決まりました。
出力は120kw、風力・太陽光と畜産あるいは木質バイオマスをセットにすれば、安定的な電力供給が可能になり地域でおこして地域で使い切るということが可能になるからです。

 エネルギーの自立に向け期待が高まる葛巻町ですが、一方で、電力が自由化、入札制度も始まり、小さな自治体ではリスクが大きくなっていて、国の支援は不可欠です。
中村哲雄町長は「国民的合意の下に国が売電価格を設定し、クリーンエネルギーを全量買い取るべき」と提案します。

   今冬は数十年ぶりの豪雪が各地に深刻な被害をもたらしています。
都市に暮らす者には計り知れない自然の厳しさ。
北国に立つ風車は羽を止め、丸い屋根のガスホルダーは雪に埋もれているかもしれません。
大量の雪をエネルギーに変える方法はないものでしょうか…。

ごみかん理事 服部美佐子
  
― gomitto memo ―
 地域の活動を理解するためには、その地域の地勢・環境を知ることが大切。
普段余り使わない地図帳を見ながら記事を読むことをお勧めします。

記事にありますように、 葛巻町は盛岡市から北東に約70kmに位置し、ほとんどが標高400m以上という山間地帯で、86%を緑豊かな森林が占めています。
岩手県 岩手郡 葛巻町 面積43,499Km 人口8,725人

葛巻町のホームページ



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