負の遺産をどう乗り越えるか

焼 却 炉 解 体 !

 

 1999年に成立し2000年1月から施行となった「ダイオキシン類対策特別措置法」により、全国の既設のごみ焼却炉は、運転方法の改善や改修工事でダイオキシンの排出基準をクリアする一方で、建て替えを選択する自治体・組合も相次ぎました。

 さらに2002年12月には、規制措置を暫定的に猶予されていた既設炉への規制が強化され、
基準を満たせず解体される施設は600 にのぼるといわれます。
2003年5月の段階では、498の自治体の焼却炉が解体されないまま放置されているとの報道もありました。(NHK・クローズアップ現代)
 また解体にあたって情報が公開されず、周辺住民に不安を与えている事例も多くあります。
法の整備から予算措置まで、的確な情報がない状態では、私たち市民も検討すべきさまざまな
課題を整理することができません。

 今回は、いくつかの事例をもとに解体問題を検証するとともに、大量廃棄の「負の遺産」といわれる焼却炉解体を越えて、ではどんなビジョンをその後に描くべきなのかを併せて考えてみたいと思います。

事例 1  二枚橋衛生組合
(東京都調布市野水2丁目)
調布市・府中市・小金井市のごみを燃やす日本最古の焼却炉

☆ 建て替え問題の紆余曲折
 今年5月30日の朝日新聞多摩版に「二枚橋ごみ焼却場・老朽化限界」の見出しで、壁や柱の
亀裂、炉室床の崩落が起こり、応急処置でかろうじて稼動している状況が報道されました。
 最初の再建計画からすでに20年が経つ中で、どんな経過があったのでしょうか。

人口の増加と大量消費社会がごみ量の増大を招き、稼動後10年経った1982年には、処理能力が5年で限界になるとの理由で早くも建て替え計画が浮上しました。
 しかし、組合が策定した「施設近代化基本計画」に示された100メートル煙突が、調布飛行場の障害になるとして頓挫。
その後、都立公園内への移転計画も周辺住民や公園に隣接する三鷹市の反対で凍結となりました。

 90年以降、施設の老朽化で処理能力が落ちる一方ごみは増え続け、一部を他所の施設に運んで処理を委託、施設は全面改修し、なお10年使うとの方針が出されました。
その10年が経過した現在、再建の目処のたたないまま、老朽化は限界に達しようとしているのです。

 このような状況の中で調布市は、三鷹市と共に「新ごみ処理施設整備基本計画検討委員会」を立ち上げ、今年4月には施設規模、処理方式、事業法式、適地選定手法等を具体的に盛り込んだ答申が出されました。
 また府中市も、多摩川衛生組合(4市で構成)との分散処理を回避するために「二枚橋での再建には参加しない」との意向を表明し、組合に設置された施設更新の検討協議会の中間報告(8/20)は<3市による共同処理以外の方策も、早急に検討すること>に言及しています。
今、二枚橋衛生組合は空中分解寸前の状況にあるのです。

 「今後は小金井がどうするのか」が焦点となるでしょうが、この20年の経過の中で3市が共同で脱焼却を目指して具体的なごみ減量政策に取り組んだ、という軌跡は見えてきません。政策的なすりあわせのないまま搬入量の割り当て制限と炉の応急手当で乗り切ってきた二枚橋。
ここに一部事務組合という組織形態が内包する大きな問題点があると言えます。

 いずれにしても避けて通れないのが「炉の解体」です。
今の状況の中、23億円と試算される費用を誰がどんな形で負担していくことになるのか、3市は
この問題を越えて時代にふさわしい展望を拓くことができるのか、注目していきたいと思います。


≡ごみっとメモ≡

☆ 二枚橋衛生組合の概要

★ 可燃ごみの焼却処理を目的として調布市、府中市、小金井市の3市が1957年に設立した
  一部事務組合(特別地方公共団体)

★ 1、2号炉は1967年に、3、4号炉は1972年に完成(当初の処理能力は最大で600t/日。
  24時間稼動の連続焼却炉としては全国でも最古

★ 調布、小金井の市境に位置する。
  現在は老朽化のため処理能力が低下し、各市とも他の焼却場にも運んで分散処理

★ 一日平均総搬入量は約343トン(02年実績)。搬入比率および分担金は、
  調布50%/9億2千万円、府中26%/5億3千万円、小金井24%/5億1千万円
  03年度予算には、定期整備費2億900万円、改修費2億3千700万円が計上されている。


【*小金井市民Mさん*】
 過去の経過には、地理的、政治的なトラブルが山積して建て替えが進まなかった。
その結果「さわらぬ神にたたりなし」で放置されてきたのが現実。
 小金井について言えば、歴代市長が二枚橋問題を先送りしてきた。
5月の新聞記事の直後に行われた市長選でも争点にはならず終わってしまった。
市民不在の政治に大きな失望を抱いている。

 

事例 2  柳泉園組合
(東京都東久留米市下里4丁目)
西東京市、東久留米市、清瀬市で構成。不安ぬぐえぬ旧炉の解体

☆ 新炉建設と旧炉解体が同時進行
 関係市の「ごみ」と「し尿」の中間処理施設である柳泉園の、新炉の建設工事が、さまざまな経過を経て始まったのが1997年7月。建て替えではあるが敷地が広かったので、旧炉のある二つの工場を稼動しつつの新炉建設でした。

 翌年3月、第一工場の排ガスから79ナノグラムmのダイオキシンを検出しました。
 新工場の稼動を目前にした2000年、第一工場は、文字どおり、建設の進む新工場の建て屋の陰で、す早く解体されてしまいました。
それはちょうど後述する「豊能郡美化センター」の解体作業でのダイオキシンの曝露が問題となっていたさなかであり、労働省が焼却施設解体工事の自粛通達を出す1ヶ月前、解体工事マニュアルが完成する半年前のことでした。

☆ 開示されない解体情報
 解体工事の直後から行政各機関に情報開示請求をしてきた≪NPO法人・ごみ5市連絡会≫の
記録によると組合構成市、東京都とも資料、記録は<不存在>と回答。
2年後の2002年4月、柳泉園組合に情報公開条例が制定され、一部が開示されました。
 工事は「清掃工事」と「解体工事」に分けて行われ、前者のみが開示の対象となりました。
一部非開示の理由は企業のノウハウを明かすことになるからといいますが、税金を払っている側としては、納得がいかないことです。

 ちなみに<焼却炉解体>をキーワードに検索してみると、解体を業とする企業が独自の工法を
宣伝するためのホームページが多く「当社の工法にはこんなメリットがあります!」と、詳しく説明しています。
「解体マニュアル」ができてから、焼却炉解体は莫大な税金が投入される事業となり、企業も続々と参入し、しのぎを削っている様子が伺えます。

☆ 飛灰も焼却灰も第2工場で焼却!
 解体工事における「清掃工事」とは、解体前に施設内部の焼却灰などを取り除き処理する作業です。

 作業的に最も危険な作業であると同時に、処理方法によってはさらに汚染を広げてしまいます。
開示された作業日報によると「焼却灰、飛灰、その他の付着物合わせて200袋(内飛灰は120袋)を、当時稼動していた旧第2工場に運び、可燃ごみと一緒に焼却処理した」と記述されています。(ごみ5市連絡会「柳泉園情報」より)

 飛灰に含まれる高濃度のダイオキシンが気がかりです。解体後の敷地内土壌調査では、
620ピコグラム/gを記録しているのです。(事前調査では林地で360ピコグラム/g)
 

検 証  焼却炉解体と法の整備
90年代後半、ダイオキシン対策強化を受けて消えた焼却炉

 96年6月、旧厚生省は「ごみ処理に係るダイオキシン削減対策検討会」を設置し、90年に策定した「ダイオキシン類発生防止等ガイドライン」(旧ガイドライン)の見直しに着手、基礎資料として全国市町村のごみ焼却施設の一斉調査をしました。
翌97年、新ガイドラインが出され、排出濃度の規制値が示されました。その後、所沢の産業廃棄物焼却施設による環境汚染問題などを経て、前出の「特別措置法」が議員立法により制定され、規制値に合わない中小の炉が数多く姿を消しました。

 建設や運営に関する法令は整備されているのに比べ、ごみ焼却炉解体に適用し得るものはほとんどないため、ダイオキシンの拡散などを配慮しない安易な方法で壊され、運ばれ、埋め立ててしまった炉も多いのではないでしょうか。
その後、労働行政サイドから「解体」に関わる法令の整備を促したのは、「豊能郡美化センターのダイオキシン汚染問題と施設解体」であると言えるでしょう。

 これらの規定は、厚生労働省所管のもので、内容の中心は「作業員が健康被害を受けないための体制づくり」になっています。
環境を汚染させないためにも、十分に慎重な作業は当然ですが、解体時に排出される汚染物の処理については、環境省と合同で、予算措置を含めた検討をするべきではないでしょうか。


≡ごみっとメモ≡

☆ 大阪府能勢町〜豊能郡美化センター〜解体と国の動き

1997年
・厚生省「新ガイドライン」策定
・美化センター、排ガスから高濃度のダイオキシン。焼却中止
1998年
・労働省通達「ごみ焼却施設におけるダイオキシン類の対策」作業の湿式化を指示
・美化センター周辺の高濃度汚染が判明。厚生省、施設を閉鎖
1999年・焼却施設解体作業開始(1999年6月〜2000年3月)
2000年
・解体作業員35名のダイオキシン高曝露が判明
・労働省、各自治体に解体工事の自粛を通達
・労働省通達
 廃棄物焼却施設解体工事におけるダイオキシン類による健康障害防止について
 概要
  前文で美化センターの解体工事作業員の曝露に触れている。
  内容は、作業環境中のダイオキシン類濃度測定、解体対象設備の
  汚染調査、調査結果の活用(解体で生じた廃棄物の処理のための情報として)、
  汚染除去作業、解体作業、排気・排水・汚染物の処理、安全管理体制、など
  項目別に詳しく規定している。
・労働省「焼却施設解体工事マニュアル」作成
2001年
・厚生労働省
 「廃棄物焼却施設内作業におけるダイオキシン類曝露防止対策要綱」設置
・労働安全衛生規則を改正
2003年
・解体で出たドラム缶4300本の撤去を求め、町民64名が組合と寮長を相手に訴訟
 

☆ 周辺環境に目を向けはじめた自治体
 2002年11月、東京都は「廃棄物焼却施設の廃止又は解体に伴うダイオキシン類による汚染防止対策要綱」を策定しました。
この要綱が都・環境局所管であることは注目に値します。
要綱は、施設の管理者が守るべき事項および解体工事の施行時に事業者が守るべき事項を規定したほか、周辺環境のモニタリングを義務づけています。
内容は、工事期間中毎日2回、敷地境界における総粉塵量を測定し、その量からダイオキシン類の量を推定する、その量が自主管理基準を越え、生活環境の被害が生じるおそれがおきたときは解体工事の見直しと、被害の回避措置を講じること、となっています。

都の環境改善部規制指導課によると、ダイオキシン自体を測定した場合、分析に日数がかかり、その間に工事が進行してしまうので、この方式を取ったということです。
 今年度中に解体される予定の柳泉園の第2工場に適用されることとなります。
また同じ年、横浜市は全国に先駆けて「横浜市廃棄物焼却施設の解体工事におけるダイオキシン類等汚染防止対策指導指針」を策定しました。
背景には、民間の廃棄物焼却施設の解体問題があり、指針をまとめるに当たって、市民や事業者からパブリックコメントを募り反映させています。
指針では、焼却炉解体に関して環境保全のための業者の責務とともに横浜市の責務が謳われ、民間の工事であっても市が積極的に関与していく姿勢を示しています。

具体的には「工事中の敷地内大気のダイオキシン測定、排水設備から場外に出る水質のダイオキシンおよび重金属類の測定、解体前後の土壌のダイオキシン類と重金属の測定が規定された上に、施設周辺の浮遊粒子状物質(SPM)と飛散物質の測定が義務づけられています。
そしてもし濃度が上がった場合には、工事を即中止、原因を究明することとなっています。

☆ 予算が無い! 自治体の苦悩
 解体マニュアルができ、それに沿って進めるとなると、解体工事には億単位の莫大な費用がかかります。
当初の予算の5倍から10倍に膨れ上がった解体費の目処が立たず先送りされている施設は全国にありますが、2004年度より、下記の条件で解体時も国庫補助金がつくようになりました。

 まず、解体時に実施するダイオキシン類濃度の測定については1/3の補助金が出ます。
解体工事については、廃棄物関連の施設(ストックヤード、リサイクルセンターなども可)の建設が条件で、1/4〜1/2の国庫補助があります。
また、解体時に炉内が3ng/g以上ダイオキシンに汚染されていれる場合は、5年以内に建設すれば補助金が出ます。

 この際、二枚橋衛生組合でも焼却をきっぱりやめ、堆肥化センターなどを提案することも可能です。解体の当事者は市町村なのですから、不備な点はどんどん声をあげ、国に対して改善を要求していくべきでしょう。


≡ごみっとメモ≡

☆ 浮遊粒子状物質(SPM)

 浮遊粒子状物質(SPM)とは、大気中に浮遊する直径0.01mm以下の微細な塵。工事前のレベルを計っておいて、工事中に増加したら工事によるものと推定でき、同時にダイオキシン類の飛散もあると考えられる。
ダイオキシンと違い時間単位で測定結果を出せるので、常時観測に適している。指針では測定器を炉の周辺4ヶ所に設置するとしている。

 最近の事例では今年3月、大阪府堺市がごみ焼却炉解体に際し、SPM量を常時監視、環境基準値を越えた場合工事を中断して原因を調べることを公表している。
測定器は焼却施設に4ヶ所のほか近隣の小学校3校に設置、携帯電話回線で情報を集める。

(京都新聞)
 

まとめ  解体を通して考えよう
過去に学び、未来に悔いを残さないために、考えたいこと

 市町村は国庫補助金がらみで次々と焼却炉を建てたまではよかったけれど、壊す段になって
右往左往しています。
また国は、作るのではなく壊すための公共事業をどうするかが突きつけられています。

 目の前に解体問題が迫った市町村もあると思いますが、未来に悔いを残さないためには、長期的なビジョンに立つ必要があります。
いくつかポイントをあげると…

◎ なぜ多大な「負の遺産」となったのかを検証する
◎ 先行した焼却炉の建て替えで、焼却能力は余っ ている現状を確認する
  ★詳しくは、ごみかん発行「焼却炉過剰の時代がそこまで来ている!?」をぜひお読みください! ◎ 納税者である市民が政策立案に参画する仕組みを多様につくると同時に、
 政策の実現に向け責任分担する
◎ 解体時における環境負荷、汚染物などマイナーな情報を行政と市民が共有する
 「リスクコミニケーション」を確立する

 今年2月、東京23区清掃一部事務組合議会において「焼却炉解体に関しての指針の作成並びに焼却炉の解体時の環境と作業の安全を監視する第三者機関を設けることを求める陳情」が不採択となりました。
 行政と市民が真の協働に至る道のりは相変わらず険しいと言えますが、小金井のMさんはこう話しています。

 「建て替え問題が行き詰まった今こそ、脱焼却へのチャンス。
小金井では生ごみの堆肥化にも取り組み、国のリサイクルシステムも製品別に進められつつある。
ごみは必ず減らせるし、大胆な減量を数字的に示した長期計画を立案して、行政と市民が共に
本気で取り組めば、小金井はごみゼロを目指していけるはず」

ごみかん理事 向井加代子・吉崎洋子


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