「かわいい!」だけで 終わらせないで ほしいんだよネー
タマちゃん
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ごみかんの「環境劇団・ビジョン座」は『いのちと自然循環からごみを考える』をテーマに劇構成での出前講座を行っています。
6月の板橋公演では、はじめて海の汚染を取り上げました。
子どもたちが入りやすいようにとアザラシのタマちやんをモチーフに組み立てたのですが、調べ始めてみると、海洋汚染の深刻さは、見過ごせないものがあります。
そこで今回の特集は「海と廃棄物・入門編」と相成りました。
今年の5月、スウェーデンやデンマークの沿岸でゴマフアザラシが大量死しているとの報道がありました。
直接の死因は、ジステンバーウィルスの感染によるものですが、6千頭以上が死に、さらに北の海全域に被害は広がりつつあるというのです。
1998年、北海で約2万頭ものゴマフアザラシが数ヶ月の間に死に、死んだアザラシから高濃度の水銀やカドミウム、鉛、PCBなど150種類もの有害物質が検出されました。直接の死因はやはリウィルス性の病気だったのですが、有害化学物質や重金属の体内蓄積による免疫力の低下がこの大量死を招いた、との指摘がされています。
同様に、87年にはバイカルアザラシの大量死(1万頭)、大西洋沿岸でのバンドウイルカの大量死(7百頭)、1990年から93年にかけては、1千頭を越えるシマイルカの大量死が地中海沿岸で発生しています。
一方、汚染物質に由来すると思われる生殖能力の低下も、これら海洋哺乳類に顕著に現れています。これは、残留性の化学物質が、プランクトンから魚、魚から哺乳動物へと連なる海の食物連鎖を通して、濃縮・蓄積されていくからです。
海洋動物は、冷たい海水から身を守るため厚い脂肪層をまとっています。化学物質の多くが水よりも油に溶ける性質を持っていることから、餌の脂肪分を介して濃縮された有害化学物質が食物連鎖の頂点に立つこれらに蓄積されていると推測されます。
こうしてみると、アザランの大量死は、深く広大な海の中で、あらゆる海洋生物のいのちが、脅威にさらされていることを告げているとも言えます。
そして、人間だけがその連鎖から逃れられるはずもなく、わたしたちはこの海からの警告に真剣に耳を傾けなければなりません。
ごみっとメモ:
魚介類中のダイオキシン類実態調査結果(水産庁)
調査は平成11年度から14年度までの4ヶ年計画で実施。計102種、423検体が調査対象でダイオキシン類濃度の単純平均は0.908pgTEQ/g。 水産庁は畜産物、農産物と合わせても日本人の耐容1日摂取量(TDI)の4割程度で問題なしとの見解。
だが、全検体を見ていくと個体によっては10pgを越えるものが数種類ある。
地中海産黒マグロ13.760pg、米国産黒マグロ10.109pg、関東産ドジョウ13.198pgなど。
そのほか瀬戸内産アナゴ8.308、大阪湾産コノシロ9.148など内海の汚染は深刻。
EUの食品規制では魚の最大レベルが4、これを越えたものは市場に出せない。日本には食品ごとの基準値はなくすべて出回っている。
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右の表の物質の由来を考えてみると、原油など一部は直接海で流出したものですが、他は陸上の排水路経由のもの、大気を経由したと思われるもの、海中を漂う物質から溶出したのではないかと疑われるものなどさまざまです。
これらは、海水から検出されるだけでなく、魚介類や海鳥、海洋哺乳類などほとんどの海洋生物から検出されているのです。
『海の働きと海洋汚染』より
用途 |
物 質 名 |
農 薬
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溶 剤 絶縁材など 塗料(防腐剤) 梱包材など 油類 重金属
その他
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DDTs(DDT,DDE,DDD),BHCs(α-,β-,γ-,δ-)
ディルドリン,アルドリン,エンドリン,クロルデン
(ダイオキシン),ノナクロル,2,4-D,2,4,5-T
BHT,フルオレン
トリクロロエチレン,ジメチルナフタレン
PCB,コプラナーPCB
TBT,TPT
発泡スチロール,塩化ビニール
原油,ビルジ水
水銀,鉛,カドミウム,セレン,ヒ素
ジイソプロピルナフタレン,アセナフチレン,アセナ
フテン,シクロヘキシルアミン,ジフェニルメタン
トリクロロベンゼン,フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
ヘプタクロルエポキシド,ペンタクロロベンゼン |
しかも膨大な体積を持つ海洋中では、かなり希釈され、また広範囲に移動するので、存在しながら検出されていない人為的化学物質もかなりあると思われます。汚染は見えない所で深く進行していると言えるのではないでしょうか。
特にPCBやダイオキシンなどの有機塩素化合物は、下のグラフのように、自然界では長年分解されることなく蓄積されていきます。
汚染物質の排出源から考えると…
*タンカー事故等による流出原油
*工場排水に含まれる重金属
*養殖用生け簀や船底へ貝の 付着を防ぐために塗布される 有機スズ化合物
*不法投棄される放射性廃棄物や核実験による放射能…などが深刻であると言えます。
しかし私たち市民(一般消費者)が直接の排出源ともなっている『プラスチック』が、さまざまなかたちで海に棲むいのちをおびやかしているという事実は、『ごみ問題』の中でもっと取り上げられるべきテーマと言えましょう。
[バルチック 海底質コアのダイオキシン類濃度]
『化学物質の逆襲』より
人間の暮らしを劇的に便利にしたプラスチックは、今やあらゆる用途に使われ、日々廃棄されています。これが海洋に流出した時、想像を越える被害を海の生き物たちにもたらすのです。世界各地から胸の痛くなるような報告が発信されています。
1966年、ハワイのサウスイースト島で、巣立ち間際に死んだ百羽のコアホウドリの雛の胃の中から、プラスチック粒子が発見された。これ以降十数種類の海鳥の胃から発見されている。
アホウドリが雛に与えた物…百円ライター、ハブラシ、タワシなど。消化器官の閉塞のほか、秒のうの中ですりつぶされたプラから溶け出す添加剤の影響が心配される。一生懸命子育てをした結果がこれでは報われない。
草食性のアオウミガメは海藻とよく似た膜状のプラ(袋やシート)を取り込み、貝やカニを常食するアカウミガメは硬質プラを飲み込んでいる。クラゲを食べるオサガメからは3×4メートルものシートが見つかっている。
胃の中のプラは消化されず排出されず、食欲を減退させ、個体を栄養失調に導く。自然界にないものを見極められなかったカメたちを誰が責められようか。
オットセイなどの海洋哺乳類が漁業用の網に絡まったり、梱包用バンドが首にはまったりする例が多数報告されている。
小さい時に絡まったこれらのプラスチックは成長するにつれて体に食い込み痛めつけ、ときには死に至らしめる。腐らないプラスチックゆえの悲劇だ。
毎年春秋の2日、全国の海岸で一斉に、波に打ち寄せられ散乱するゴミを捨い、なおかつ種類別に数を数えて調査用紙に記入している人々がいます。
各会場の記録は『クリーンアップ全国事務局』(国分寺市、ごみかんの事務所とは目と鼻の先)に集められ集計されます。
この根気のいる作業の結果は「現代のごみ」の現実を具体的な形で私たちに突き付けています。回収されるごみのうち、発泡スチロールも入れると実に80%がプラスチック系のゴミです。タバコのフィルターが多いのは、海岸での投げ捨て以上に市街地から雨水幹線や河川を経て運ばれて来るのでしょう。
ポイ捨てをマナーのみでなく自然環境に負荷を与える行為として捉え直す必要があります。発泡スチロールやプラスチックの多くが破片となっているのは注目すべきことです。 これら生分解性のない物は、どんなに細かくなっても自然の循環からはずれて存在し続けるのです。しかも小さくなればなるほど回収は不可能です。
このことから、肉限で見分けられないほどのプラスチックが、海岸の砂に混じり、海中を漂い、海底に積もり続けていることは容易に想像されます。
アメリカの環境NGOが作成し、日本のNGO・JEANが日本語版を作成したビデオ『人工の海〜外洋のプラスチック〜』には、プランクトンとともに海面近くを浮遊する無数の細かいプラスチック片が映し出され、プランクトンネットを使った実験では、プラスチックの破片がプランクトンの6倍にも上っていると報告しています。
魚や鳥が、選り分けて捕食しているとは到底考えられません。何十億年も生物のもたらす汚れをその懐で浄化してきた大洋が、たかだか40年の間にこんなに汚染されてしまっているのです。
プラスチックに依存し過ぎない社会へと転換するために、自然素材の代替品にできる物から変えていく、排出物の回収を徹底するなど、いますぐ取り組んでいかなくてはなりません。
【水際・海中で採取された品目ワースト20−2002年秋】
素材…P:プラスチック、EPS:発泡スチロール、X:複合素材、 G:ガラス、Pa:紙、M:金属、W:木(加工)
順位 | 素材 | 品 目 | 回収個数 | 割合(%) |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 |
P P EPS EPS P X P G P P Pa P M P M P W P P P
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タバコのフィルター プラスチック破片 破片(小・1立方センチ以下) 破片(大) カキ養殖用パイプ 花火 シートや袋の破片 ガラスの破片 お菓子のバッケージ ふた・キャップ 紙片 スーパー・コンビニの袋 飲料缶 その他の袋 釘・鉄板・鉄筋・針金など ひも・ロープ 加工された木材 その他のパッケージ 飲料用のプラボトル レジンペット |
96,691 71,741 59,741 46,572 19,860 19,329 16,935 15,211 14,436 13,407 12,214 11,448 9,540 8,991 8,642 8,098 7,913 7,487 7,069 5,921 |
17.98 13.34 11.11 8.66 3.69 3.60 3.15 2.83 2.69 2.49 2.27 2.13 1.77 1.67 1.61 1.51 1.47 1.39 1.31 1.10 |
| | その他 総合計 | 76,375 537,621 | 14.21 100.00 |
[クリーンアップ・キャンペーンREPORT]より
調査会場数 調査員数 採取数合計 一人当たり採取数 集めたゴミの重さ(kg) 水際の長さ(m) |
139 10,465 537,621 50.5 30,395 39,654 |
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漂着ゴミの中には、韓国、中国、アメリカなどから国境を越えて流れつく物もあります。同様に日本産のゴミも他国の海岸に打ち上げられます。
このゴミを運ぶのは、海流や風の働きです。海洋では塩の濃度、気温(水温)などによって、海水の表層―深層の縦の移動が起き、さらに海面を吹く風に引きずられて発生する吹送流(吸送流)、その吹送流や地球の自転の影響を受けながら数百年以上をかけて地球を一巡する『大循環』など、大小の海流が発生しています。
海は、熱容量が大きいため一定の温度を保ちやすく、いろいろな物質を溶かし込み、その流動性によって物を運び、その比重の高さゆえ物を浮遊させ、また赤外線や紫外線をよく吸収します。
陸地や大気中以上に生物にとって最適の環境が、最初の生命を生み、今なおその原形をとどめる生物のいのちをはぐくんでいます。
そこでは、植物プランクトンから動物プランクトンを経て魚へと続く食物連鎖のほかに、植物プランクトンの光合成によるCO2の吸収、さらに窒素やリンなどの元素の循環など大気や陸地とも深くかかわりつつ、安定した地球環境を保つ営みが続けられています。
人間の生産活動がこの自然の循環を超えたとき、地球は海や森林によって支えられている絶妙のバランスを崩してしまいます。
温暖化による海面の上昇、赤潮や青潮の発生など人間によって引き起こされた、海洋の機能障害や生態系の変質もまた深刻な海洋汚染と言えるのではないでしょうか。
ごみっとメモ:
「海洋環境の汚染」の定義
生物資源及び海洋生物に対する害、人の健康に対する危害、漁業その他の適法な海洋利用を含む海洋活動に対する障害、水質の悪化及び快適性の減少をもたらし、またはもたらすおそれのある物質やエネルギーを、人間が直接的間接的に河口や海洋に持ち込むこと (国連海洋法条約・1982年採択、96年日本批准)
海を護る法と国際条約
*国連海洋法条約…国際的な海の憲法
*ロンドン・ダンピング条約…放射性廃棄物、産廃の海洋投棄禁止
*マールポール条約…船舶からの汚染を禁じる国際条約
*海洋汚染防止法(日本)…マールボール条約の国内法
昨年7月の「水底底質のダイオキシン類に関する環境基準」の制定により、対策としてのしゅんせつの結果、汚染された土秒が排出される可能性をにらんでの措置
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ごみかん理事:吉崎洋子
参者文献
「海の働きと海洋汚染」 裳華房
「プラスチックの海」 (株)海洋工学研究所
「化学物質の逆襲」 化学物質問題市民研究会編
「クリーンアップキャンペーン2002REPORT」 JEAN・クリーンアップ全国事務局
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