ごみっと・SUN 27・28号
アメリカ ★ エコロジー ・ウォッチング

 

七代先の子孫にとって良いと思えば「YES」

  テロ事件直後で緊張の最中でしたが、9月半ばから10月初めにかけて、アメリカ西海岸のワシントン州とカリフォルニア州を旅してきました。
環境問題に関しては、地球温暖化の原因となるCOの最大排出国であり、大量消費・大量廃棄のライフスタイルのご本家として、マイナスイメージの強いアメリカですが、日本がお手本にしたいような先進的な面もたくさん持っています。
そんなエコロジカルなアメリカの姿をリポートします。


★ ファーマーズマーケットで新鮮で安全な農産物を!

 収穫したての野菜や果物を農家の人から直接買うことができるファーマーズマーケット。
近くで生産されているから「消費者に届くまでの輸送エネルギーが少なくてすむ」「余計な包装もない」「都市生活者が志ある家族的農業を支えることができる」といったエコロジカルで社会的メリットもあります。
 アメリカのファーマーズマーケットはここ十数年で急速に広まりましたが、その多くは各地の環境NPOが運営しており、ヨーロッパの伝統的な朝市や日本の農協の直売所などとは若干性格が異なります。

  今回は、サンフランシスコ近郊のバークレーのファーマーズマーケットに行きました。規模は大きくありませんが、ほとんどの産物がオーガニックで、質では全米一とも言われます。「ほら、食べてごらん」ポキンと折って差し出された生のアスパラガスを食べてみたら、甘くて力強い味!ジャムやナッツペースト、卵、チーズ、パン、お花などのブースもあり、生演奏の音楽も。芝生の上に腰を下ろし買ったばかりのりんごをガブリ!
 このマーケットを主催しているのはエコロジーセンターという団体で、地域の人々にさまざまな環境に関する情報や教育の場を提供しています。中でもこのファーマーズ・マーケットは最も重要な活動で、毎週火曜日と土曜日に年中開催しています。

 買い物に来る人の多くは大きなトートバッグやバスケットを持参しています。そして会場内のゴミバケツは、ちゃんとコンポスト(生ゴミ)、リサイクルできるビンなどの容器、リユースできる袋、その他のゴミ(紙くずなど)に分かれていました。


★ ナチュラルなスーパーマーケット

  巨大なナチュラル・スーパーが各地にあるのもアメリカの羨ましいところ。
 Whole Foods,Wild Oatsといった全国チェーンのスーパーもあれば、サンフランシスコエリアの老舗Real Foodsもよく行くお気に入りです。
 野菜や果物はオーガニックが基本。肉は抗生物質やホルモン剤を使用せずに安全な飼料で育てたものが並んでいます。保存食品や日用品、化粧品、ベビーフードやペットフードなど…普通のスーパーにある品目がほとんどエコロジカルな商品で豊富に揃っています。
 デリには美味しそうな惣菜が並び、店内で食べることもできます。ディスプレイのセンスの良さなどもグルメスーパーの趣ですが、普通のスーパーに比べて値段が極端に高いわけではありません。

  マイバッグを持っていくとレジで5セント引いてくれます。旬の素材を使った料理のレシピや、遺伝子組み換え食品などに関する情報も消費者に提供しています。
 ナチュラル・スーパーの普及は、アメリカという国が大量生産・大量消費・ファストフードの国である一方で、エコロジカルな思考に基づいて生産、消費する人々もしっかりと存在し、ビジネスとして成長していることの証といえます。

 こうしたスーパーに並んでいる洗剤などのブランド、「セブンス・ジェレネーション」は、ある先住民の逸話から生まれました。部族の長が判断を下すときには、七代先の子孫にとって良いと思えば「YES」、悪ければたとえ明日のためには良くても「NO」の答えを出す、という。
そう、この大陸は元はそういう思想の人々の土地だったのです。


★ ようこそコミュニティーガーデンへ

 緑豊かなシアトルの住宅街を歩いていたら、目の前を大きなリスが横切りました。
リスが入って行った茂みは庭のようで、開け放たれた門の脇に「ようこそ私たちのコミュニティガーデンへ。どうぞ入ってご覧ください」と書いたボードがあります。
 早速足を踏み入れると、木の枠で小さな区画に区切られているのは日本の市民農園と似ていますが、表情がまったく違います。石畳の脇に花が咲き乱れ、草花の中にトウモロコシやらトマトやらが実っているといった趣き。野生的で楽しいのです。
まっすぐに畝をつくり雑草もきちんと取り払う几帳面な日本人の市民農園とは対照的です。
 サンフランシスコでもコミュニティー・ガーデンを探して行ってみました。海に面した高台は陽あたり抜群。レモンやカボチャがたわわに実っています。鳥よけの案山子や風見鶏もユーモラス。大きな共同コンポストもあります。

 資料によると、市内のガーデンはおよそ50ヶ所。わずか5区画のものから110区画まで大きさも様々なら、栽培しているものも活動内容も地域によって特徴があります。
 中でもリッチモンド地区のアルゴン・コミュニティ・ガーデンは、一度は開発の波にのまれて廃園の危機にさらされましたが、他のコミュニティからの応援も得た反対運動で土地を取り返したそうです。
今では収穫物の一部をホームレスのシェルターに届けたり、太陽光発電の学校まで作っています。
 サンフランシスコでは、San Francisco League of Urban Gardeners (SLUG)というNPOがコミュニティ・ガーデン全体の管理とサポートをしています。
農薬や化学肥料を使わないオーガニック農法を指導することでよりよい環境を学ぶ機会を市民に提供しています。また低所得者のために庭造りの職業訓練もおこなっています。
コミュニティ・ガーデンは、農作物や草花だけでなく、人間も、コミュニティも育てる大切な役割を果たしているのです。
 カリフォルニアでは、スクールガーデン・プログラムも盛んで、特にバークレーでは「すべての学校に食べられる庭を」というプロジェクトが進んでいます。
子どもたちはこの学校菜園で、地域レベルの食料生産、栄養学、料理法、廃棄物の抑制とコンポストといったテーマを学習できるのです。
 こうしたガーデン・プログラムは、私たちの地域でもまちづくりや環境学習に取り組む際にいろいろ参考になりそうです。


★ 太陽の町ホップランド

 サンフランシスコの北約144Kmのところにあるホップランドは、青い空の下ワイナリーが広がる小さな町。ここにかねてから訪ねたかったReal Goodsというエコグッズの会社の本店とSolar Living Centerがあります。
 Real Goodsは、1978年に創業者のジョン・シェーファーがエコロジカルなライフスタイルを普及させたいとオープンした小さなエコショップから始まりました。
80年代後半から環境意識の高まりに伴い通信販売と公募による株発行で急成長、全米最大のエコ商品会社になりました。
豊富な商品の中でも、省エネと家庭で手軽に太陽光、風力などの自然エネルギーを取り入れるための商品が特に充実しています。
持続可能な未来を実現する環境教育を行うためにNPO法人も設立。

 その実践の場がSolar Living Centerです。
敷地内はすべて自然エネルギー(うちほとんどが太陽光)でまかなわれていて、時間や季節の太陽の動きに合わせて角度が自動的に動くソーラーパネルなどは間近で見るだけでもワクワクしました。
 建物は断熱性の高いワラ積み壁、自然光を最大限に生かした照明など工夫がこらされています。また、池、噴水、畑など、水がいたるところに循環しています。
建築もランドスケープ(風景)も、効率的であるとともにデザインとしても美しい。研究者、メーカー、建築家、各ジャンルの人々が共同でつくりあげ今も研究し続けている場なのです。そしてここで様々なワークショップが行われています。
それぞれの地域でその地形や気候に合わせたエネルギーを利用するために、日本でも各地でこうしたセクターによる研究がすすめられるとよいと思います。

★ エピローグ

 今回シアトルで滞在したイン(宿)では、部屋に「シーツやタオルを毎日換える必要ありますか?」というメッセージカードがありました。環境のために洗濯による水や洗剤の使用の削減に協力して下さいというものです。すぐにこのインが気に入りました。
 たくさんの希望に出会った旅の一部を皆さんにお伝えすることができて幸いです。
瀬口 亮子


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