ごみっと・SUN 25号
魚アラの完全資源化プラント
世界有数の規模と処理量を誇る飼料工場を訪ねる
グリーン購入法、建設リサイクル法、家電リサイクル法に続き、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律=食品リサイクル法が、5月1日より施行されました。
食品の製造や調理、流通、消費の段階で発生する食品廃棄物は年間約2,000万トンにものぼり、このうち再生利用されている量は1割にも及びません。(最終ページに掲載した、表「食品廃棄物の発生量及びリサイクルの状況」参照)
食品リサイクル法は、食品廃棄物の発生抑制と減量化により最終処分量を減少させ、肥料や飼料としてリサイクルさせることを目的としています。
該当する食品関連事業者としては、食品メーカー、デパート、スーパー、コンビニ、八百屋などの食品製造、加工、卸売、小売業と、食堂、レストラン、ホテル、旅館などの飲食店業で、これらすべての事業者が適用対象となります。
リサイクル経費は事業者がすべて負担し、再生利用等の達成基準を2006年度(H18年度)で20%以上としています。年間排出量が100t以上の事業者で、基準に満たない事業者には勧告し、従わない場合は事業者名の公表や最終的には罰則も科すことになっています。
食品リサイクルを法律で義務づけたことで、食品廃棄物の発生抑制と減量、リサイクルが、促進されることが期待されます。
そこで今回は、食品リサイクルの現場に同行し、臨場感溢れる特集レポートとしてお届けします。
少し降った雨にぬれたサツキが、ライトに照らされ、消えていく。笛木さん「(仮名)は、夜の静寂をぬってステンレスの荷台を載せたトラックを走らせる。 やがて魚商の前に停車し、店先にある容器の中身を荷台に空ける。用意されてあるバケツの水で、容器の汚れを洗い流す。次のスーパーでは3個の大型容器があり、車の後ろにあるリフトに自分もいっしょに乗って、同じ作業を繰り返す。 「こんなところに?」と思うような、住宅地の奥の小さな寿司屋にも車を寄せる。
| トラックの荷台に積まれたアラ |
笛木さんは、魚アラの収集の仕事を30年余り続け、すでに60歳を超えているが、精悍さを失っていない。 私は食べもの屋を営む関係上、笛木とは25年のつきあいになる。食品リサイクルの現場を見てみたい、という企画がたったとき、私はすぐに笛木さんを思い浮かべ、頼み込んで仕事に同行させてもらうことにした。
午前1時30分、次々と魚屋やスーパーを移動し、黙々と笛木さんの作業は続く。 月曜日は、日曜の分もあるので収集量が多く、彼は受け持ち地区を2回に分けて収集する。全部で100か所余。 私は2回目から収集車を追走した。
東村山→清瀬→東久留米→西東京→新座、ここで午前3時、ラジオからは1時間にわたって美空ひばり特集が流れる。すっかり明るくなった4時30分、笛木さんの収集作業は終了した。
50数年前、私は東京文京区で少年期を過ごしていたが、家庭ごみ収集車は「チリン、チリン」と呼ばれ、その名の通り合図の鐘をならして収集に来た。 車といっても人間が引く大八車で、荷台には緑色に塗られた木製の箱状のものが乗せられており、そこにバケツに入れられたごみを投入した。時折、その横をオート三輪が、何本ものドラム缶を乗せ、だらだらと血水を垂れ流しながら、魚屋のアラを収集していた。
私が25年前にラーメン屋を始めたとき、ダシをとった大量の煮干を、市のごみ収集に出さないですむ方法があるはずだと思い、ある夜、近所の魚屋の前で待ってみた。
案の定12時をまわるころ、一台のトラックが来てバケツの中のアラを収集し始めた。声をかけ「うちの煮干も収集してくれないか」と頼んだ。 笛木さんとはそのときに知り合った。そんなことを思い起しながら、収集を終え、埼玉県草加市の三幾飼料工業へ向かう笛木さんのトラックを追う。
6時前に三機飼料工業に到着。続々と各地から収集車が入ってくる。車は順次、工場内に入り、計量後に受け入れ槽にアラを投入する。 車はダンプトラックのように荷台が上がるのではなく、投入口までバックで入って、車ごと傾斜させて荷を落とし込むようになっている。
やがて主役の登場だ。テレビで魚市場が紹介されると、決まってずらりと並んだマグロが写し出される。そんな時、頭部はずいぶん大きく見えるものだが、アラとして入ってきたものは意外と小さいものだ。
作業は淡々と進んでいく。「マグロのアラ」というだけでなにか豪快な作業風景を勝手に期待していたが、作業する人たちも高齢で、一見無愛想に見える。 それでも聞かなくてはならないことがあるので声をかけると、愛想よく答えてもらえてほっとする。
| アラの投入口 |
槽の内側にはらせん状になっている数本のスクリュ−コンベアがあり、それが回転することによって、工場内に搬送される仕組みになっている。(写真右)
まずクッカ−(煮熱機)で15分〜20分高温で蒸され、魚の骨をやわらかくする。 次にスクリュ−プレス(圧搾機)に送られ、余分な水分を除き、搾りかす(固形分)と液体に分離する。 かすはドライヤーで乾かされ魚粉(フィッシュミール)となり、液体分はさらにデカンター(分離機)にかけられ、魚油、タンパク液などに分離される。
これらのプラントは「フィシュミ−ルプラント」と呼ばれ、主要な機械はデンマーク、ノルウェー、ドイツ、スウェ−デンなどの北欧製。 長い歴史と経験により完成されたもので、それを輸入し配備したものだ。
投入口に投入された原材料(ここではゴミではなく、魚粉と魚油を製造する原料)は自動制御された装置の中で所定の処理をされて製品として完成する。
完成した魚粉は
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魚粉の袋詰め作業
1袋に500Kg入る |
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バラの魚粉を直接
大型トレーラーに積み込む
今日は岡山までと運転手 |
絞られ精製された魚油は
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貯油タンクがそびえ立つ |
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タンクローリーで出荷 |
魚粉は畜産、養魚飼料、ペットフード、肥料など。
魚油は業務用マーガリン原料、DHAオイル、ショートニング、石鹸などになる |
さて、気になるのは周辺への配慮だ。魚腸骨の取り扱いで、最大の悩みは「悪臭」と「血水」。同社は公害防止のため万全を期しているという。
収集車はステンレス製の槽を設置して、車外に血水が流れ出さないようにしている。悪臭の対策としては無臭化するためにボイラーで燃焼脱臭し、ダクトに臭気を集めボイラーでの燃焼用空気の代わりに導入し、1100℃、0.5秒間滞留で熱分解し、無臭としている。
工場内の悪臭は1分間 2,000m3強のファンで脱臭装置に導き、水洗、酸洗浄、次亜塩素酸ソーダ、活性炭などで反応、吸着させて無臭にし排出している。
またトラックを洗った水、場内洗浄水、濃縮装置ドレンから出る汚水は、排水処理装置に送られ、微生物に汚水中の富栄養素を食べさせ、水を浄化するという方法(活性汚泥法)により、浄化し放流する。
三幾飼料工業のプラント整備は、1991年度(H3年)から、農水省によって魚腸骨処理施設の整備について助成事業が創設され、これを受けて、東都魚さい処理協同組合(魚アラの収集・処理をしている業者で組織)の食品商業基盤施設整備事業として、同社に既設の施設と併設して新しく整備・強化された。(注)
このため組合員なら誰でも利用でき、要望があれば優先的に対応することになっている。新施設は三幾飼料工業が組合から借り受けて、管理・運営している。
(注:このような助成事業の背景には、ごみを減らし資源化を進めようという世論と行政の考え方があったと思われる。1時間に10トンのアラを処理するプラントは、約8億円かかるといわれ、処理業者だけでは対応が難しいという現実を無視できなかったのだろう) |
ところで、以前から築地市場のマグロのアラは三幾飼料工業で全量処理されていると聞いていた。マグロが良質の魚粉になることは知っていたので、これは見逃せない!
マグロのアラは平常2時頃に入ってくると聞いていたが、午前1時、早めに受け入れ槽の横に張りついて待つ。担当者によると築地の入荷量が断然多いが、他に千葉、船橋、大宮、千住、川越、横浜の各市場からも入ってくるという。総量60tだそうだ。やがて主役の登場だ。テレビで魚市場が紹介されると、決まってずらりと並んだマグロが写し出される。そんな時、頭部はずいぶん大きく見えるものだが、アラとして入ってきたものは意外と小さいものだ。
作業は淡々と進んでいく。「マグロのアラ」というだけでなにか豪快な作業風景を勝手に期待していたが、作業する人たちも高齢で、一見無愛想に見える。それでも聞かなくてはならないことがあるので声をかけると、ぼそりと答えてもらえてほっとする。
ここで三幾飼料工業の総務部長で、東都魚さい処理協同組合専務理事でもある中澤輝之氏にいろいろと話を伺った。
同社の仕事は、魚アラを資源化する=原材料の生産であり、それをメーカーに販売して成り立っているが、価格は自社だけで決められない制約があるという。魚粉の世界的な生産地は南米のペルー、チリであって、そこから商社が輸入するが、その時のコスト、漁獲量、為替レートの高低があり、日本国内では鰯漁の多寡による違い、植物タンパク(大豆粕など)との競合などがあり、魚粉は全くの国際相場商品だという。
「日常業務をしていて何か問題点は?」との問いに―――『食品リサイクル法ができて、世間的には追い風のように見えるが、実際にはそうでもない。同法は農水省がやっているが、単独に法が働くならばメリットがあるかもしれないが、厚生労働省管轄の廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の上に乗っかった法律だから、廃掃法を守って、その上に食品リサイクル法もあるということなので、我々から言えば、規制緩和じゃなくて規制強化の部分もある。
食品リサイクル法ができることによって、この業界は金になるのではないかと考えて、あらゆるベンチャーが参入してくる。生ごみ処理機なんかはいい例だ』とのこと。
例えば…メーカーが生ごみ処理機をスーパーに売り込む。スーパーも今の生ごみ処理機では無理ではないかと思いつつも、実験的に使ってみる。やはり対応しきれず、一度収集を断っておきながらまた依頼してきた…ということもあったそうだ。
組合の発行するパンフレット「魚のあら、捨てればゴミ!活かせば資源!」によれば、目指しているのは『より価値の高いリサイクル』だという。
一番価値の高いのは「人間が食べられる」ようにすることであり、次は「動物の飼料」や「農作物の肥料」にすることであり、最後は「エネルギー」。なるべく高い価値になるよう努力していく、と中澤氏も言い、納得がいく。
最後に会社としての今後の展望について聞いてみた。
現在のような仕事をしていると、食品メーカーとの取引があるので、ごみに関していろいろな相談を受けることがある。例えばビールかす、ジュースかす、パンかすはいまはごみになっているが「資源化できないのか」という要請があるという。そういった分野にも発展させていけるように、いろいろと調査中だという。
これら食品の廃棄物を単にごみとして処理することは、いくらでもできるが、リサイクルしようとして、三幾飼料工業のような処理工場を新しく造るとしたら、許認可のことがあり、現行の法律のもとではダメだろうという。
リサイクル業をやろうとすれば、厚生労働省の産廃の廃掃法がらみとなり、中間処理業の認可を取るというのは、この辺では不可能だという。住民合意が必要だからだ。
農水省は育成する省だが、厚生労働省は規制する省なのだ。廃棄物を「使えるもの」と「使えないもの」に分けて考えなくてはならないのではないか。「使えるもの」は廃棄物と呼ぶべきでない。使えるものは有用物として区別し、廃棄物のなかにいれるべきではない。この辺を変えていかなくては、何も進まないだろう。
三幾飼料工業は1954年(S29年)10月に養鶏飼料の販売を目的に設立され、1961年(S36年)から魚アラ、魚油の製造を開始した。
従業員は70名。下請外注者120名。アラの収集作業は下請け外注者が多く、運搬車(2t〜10t)も持込みである。発生業者による持込みもあり、1日当りの搬入車両は関東1都6県と山梨、福島から180台に及ぶ。
処理能力は1日500t〜700tで、持込まれたその日のうちに処理し、資源化(年間15万トン)される。1,000坪の敷地の中に建つ工場は、日本全国で最大の規模と処理能力を持ち、世界的にもトップレベルだという。
魚アラを飼料化する工場は30年前には、関東だけで40社ほどあったが、公害問題(悪
臭、排水)や鰯の不漁、製品の暴落など、さまざまな事情で倒産し、現在は成田市に1社、
銚子に小規模なものが4社あるだけ。
収集ヶ所は1,800ヶ所のうち1,300ヶ所ほどが同社の扱いだというから、圧倒的なシェアだ。 |
取材を終え、工場の外に出ると午後3時になっていた。深夜から14時間に及ぶ「追っかけ」であった。 東村山市から往復140km。帰路、薄日さす公園にサツキが雨を求めるかのように咲いていた。 さて、私も帰ったらビールだ!
食品廃棄物の発生量とリサイクルの状況
分類 |
発生量 |
焼却・埋め立て |
再生利用 |
|
|
|
肥料化 |
飼料化 |
その他 |
計 |
一般廃棄物 うち事業系 うち家庭系 |
1,600万トン 600万トン 1,000万トン |
1,595万トン |
5万トン |
− |
− |
5万トン |
産業廃棄物 |
340万トン |
177万トン |
47万トン |
104万トン |
12万トン |
163万トン |
事業系の合計 |
940万トン |
775万トン |
49万トン |
104万トン |
12万トン |
165万トン |
合 計 |
1,940万トン |
1,772万トン |
52万トン |
104万トン |
12万トン |
168万トン |
出典:厚生省資料(平成8年度)に基づき農林水産省資料より推計
ごみかん運営委員:田浪正博
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