ごみっと・SUN53号
最終処分場の延命策

本格稼動を迎えるエコセメント事業


 2006年2月12に「循環型社会におけるごみ焼却灰の処理をどう考える・本格稼動を迎えるエコセメント事業」と題して開催された『市民ごみ大学セミナー』の概要をダイジェスト版として掲載します。

基調講演 これからの焼却灰の処理
岡山大学大学院自然科学研究科教授 田中勝さん

田中教授にはごみ処理の歴史や法律、資源や環境の問題など多岐にわたってお話いただきましたが、「これからの焼却灰の処理」を中心に報告します。

循環型社会へのハードル

 循環型社会におけるごみ問題の解決には、資源の限界、環境容量の限界、費用の限界、という三つのハードルを乗り越えなければならない。
廃棄物処理でもこのハードルを乗り越えるため戦略的な廃棄物マネージメントが必要である。
 ペットボトルのリサイクルの場合、効果的な回収の範囲だと資源やエネルギーを余り使わずにできるが、回収率を極端に上げようと汚れたものまで集めて選別・洗浄すると回収よりも消費される資源が多くなってしまう。
環境汚染のリスクは、あるところまで減らして健康に影響がないようにする。
この値より減らしても健康上の効果はほとんどなく、コストやエネルギーの消費が増え炭酸ガスはどんどん排出されてしまう。
 各要素はトレードオフの関係にあり、一つの要素を求めるのでなく「ベストミックス」を求めなければならない。

処分場の延命策

 日本は国土が狭く人口密度が高い。
ごみが増え続けた結果、作っても作っても埋め立てる場所が足りない状態である。
焼却処理には抵抗感があり、なかなか理解が得られないが、20世紀のごみ処理の目標は燃える物は徹底的に燃やし減容(10〜20分の1)して、焼却率100%にすることだった。
 発生抑制や分別を徹底しても発生するごみは、焼却し減容した残渣(焼却灰)を埋め立てるが、それでも埋め立て処分場が不足するならば、溶融処理またはセメント化を選択してリサイクルすることになる。多摩はエコセメントを選択した。

 エコセメントは焼成の過程で1,300度以上に加熱されるので、ダイオキシンは分解する。重金属の濃度も心配するレベルではないので建設資材として使用可能である。
東京23区は焼却灰を1,200度以上で溶融する技術を採用し、スラグをインターロッキングやアスファルトの骨材として使用している。

焼却の利点と有害物質

 焼却の利点として、公衆衛生・生活環境の保全の面では滅菌効果が上げられる。ごみの多くを占める有機物は焼却で分解されるので、最終処分場から発生するガスによる火事や悪臭の心配もなくなる。
 以前は排気ガス1mあたりのダイオキシン量は1,000ngぐらいの量が想定されたが、最新の技術により、劣化したり汚れている物を燃やしても、最近の基準は0.1ngとなった。
実測データでは0.01ngとか0.001ngという数値が出ている。

 野焼きも禁止されダイオキシン濃度も環境に存在する濃度程度にまで減らせるようになり、これでごみ焼却に伴うダイオキシン問題は決着がついたかなと思う。

具体的な手法に不可欠な「市民参加」

 動脈を強化してきた20世紀が終わり、21世紀は静脈を強化して動脈につなぎ、循環型社会を作っていく。
循環型社会における焼却灰の処理もエネルギーや資源の保全、環境負荷の削減を効率良く、経済的に実現することが求められる。

 地域ごとの異なったハードルを越えるためには、市民参加が不可欠だ。
皆さんは「廃棄物処理の費用を負担するのも環境汚染の被害を受けるのも私たち、次の世代に環境問題も財政的なツケも先送りは出来ない」との意識であると思う。
私達ができる方法で、余り借金を増やさずに問題を解決していくしかない。
環境に関する価値観を共有し、タックスペイヤーとして監視、目配せが欠かせない時代である。


報告 多摩地域のごみ行政とエコセメント事業
東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合・管理者 石川良一さん

 東京・稲城市の石川市長は2005年10月から処分組合の管理者を務めています。
昨年3月の市民ごみ大学「容器包装リサイクル法改正〜事業者VS市町村&市民〜」では自治体の立場で発言をいただきました。(ごみっと・SUN47号)参照
今回は広域処分組合の管理者としてエコセメント事業の報告をお願いしました。

処分場を必要としないごみ処理を目指す

 稲城市は1998年、最終処分場への負荷を少なくするために灰溶融施設を備えた中間処理施設を作り、現在、稲城市、国立市、府中市、狛江市のごみを処理している。
溶融炉で不燃ごみも処理できるので、稲城市と狛江市は処分場に不燃物を持込まず飛灰だけ持ち込んでいる。
発生するスラグは独自の販路を持ち公共事業で使い、民間企業にも販売している。

 飛灰だけだが、何十年も埋めれば処分場は一杯になってしまう。エコセメント事業でセメントの材料として活用できれば稲城市と狛江市は処分場を必要としない。
多摩地域全体を最終処分場が必要ないごみ処理にすべく、構成自治体にお願いと指導をしていきたい。


多摩地域のごみ量の推移

 多摩地域全体で言えば、2005年度、ごみ量は6市で有料化が導入されたこともあり、3.9万トン、2.9%減少した。
一人一日のごみ量は891グラムと全国的にも少なく、前年度より32グラム、3.5%減少した。
総資源化率27.7%は全国的にも突出した数字でごみ資源化率と共に過去10年間確実に伸びている。最終処分量は11.6万トンと前年に比べて1.2万トン、9.5%減少した。そのうち焼却残渣は10.2万トンで1.4万トン、15.6%の減少となった。

 処分組合は多摩地域25市1町、人口390万人のごみの最終処分をしている。
構成自治体へのアンケートによると、搬入予定量は2012年で焼却残渣9.5万トン、不燃物が1.5万トンで依然埋め立て処分が必要である。
この先人口が増えても有料化などでごみを減量し、この数字をベースにエコセメント事業を進める。

第3処分場を作らないためのに

 二ツ塚処分場(多摩地域の最終処分場。同じく日の出町にある谷戸沢処分場に続く二つ目の処分場)は1998年から埋め立てを始めた。
総埋め立て容量370万m3のうち、2005年度3月末までに約39%埋め立てを終了した。
今後のごみ減量を勘案しても、2013年度でほぼ満杯になってしまう。
当然第3の処分場を探さなければならないが、極めて難しい。

 事業の目的は第3処分場を作らないようにするためで、エコセメント事業を行うことでリサイクルやリデュースをストップさせる考えは全く無い、3Rはしっかり前進させていく。

運営方法と費用

 エコセメント工場は二ツ塚処分場内にあり、面積約2.8ha、焼却残渣の処理能力は330d/日、エコセメント生産能力は520d/日である。
公設・民営方式(D.B.O)で、処分組合が施設を所有、運営の管理・監督を行い、民間企業が施設の設計・施工と運転・維持管理やエコセメントの販売を一体的に請け負う。

 施設整備は太平洋セメントと荏原製作所のJV(共同事業体)、施設運営は両者が出資した東京たまエコセメント、販売は太平洋セメントが担当する。
 建設費は消費税を含めて272億円、運営委託費は20年間で約530億円、年間約26億4千万円、毎年の物価上昇を考慮して支払う。電力、上下水道、燃料費等は年度単位で契約する。

公害防止策

 ダイオキシン類は1,350℃で焼成するため分解され、再合成を防ぐために排ガスは200℃以下に急速冷却し、ろ過式集塵機や活性コークス塔で吸着除去する。
排ガス中のダイオキシンほか、窒素酸化物、硫黄酸化物、塩化水素、ばいじん、水銀は、法令等による規制値より厳しい自己規制値を遵守する。

 重金属類は重金属回収設備で回収し、精錬所で銅・鉛・亜鉛等として分離し再生する。
その他、水質汚濁防止、騒音防止、振動防止、悪臭防止などの対策に万全を尽くす。


報告 焼却灰のエコセメント化とは?
太平洋セメント 東京三多摩エコセメントプロジェクトチーム・管理者 市川光成さん

 エコセメント施設の運転や維持管理を請け負う東京三多摩エコセメントのプロジェクトチームの市川光成部長にエコセメントについて報告していただきました。

セメント製造の特性と廃棄物リサイクル

 セメントの原料の8割は石灰石で、粘土、珪石、鉄原料が加わる。
これらを適正に混ぜ、粉砕して1,450℃の高温で焼成して中間製品の
セメントクリンカーができる。
コンクリートとして固まる速さを調整するために石膏を加え粉砕するとセメントが完成する。
 セメント製造には多量の廃棄物を活用している。
その理由は、セメントの原料である石灰石・粘土・珪石などと、焼却灰や汚泥などの成分が類似しているので代替が可能であり、セメントは石炭を主燃料として高温で焼成されるため、廃タイヤ、廃油、廃プラスチックなどの可燃性廃棄物を燃料として利用できるからである。

    燃焼後の残渣(灰)はセメント原料としてクリンカーに取込まれ二次廃棄物が出ない。また、ダイオキシンやフロン等の有機物は高温のキルン内で完全に分解される。
 多くのセメント製造プラントは1日4,000トンから5,000トンの生産能力があり、多量の廃棄物の処理ができる。
30年ほど前から廃棄物を受け入れ始め、直近データによるとセメント業界全体では3,000万トン弱の産業廃棄物を受け入れた。

焼却灰を多量に使用したエコセメント

 エコセメントは「エコロジー」と「セメント」を結合して作られた言葉で、エコセメントの製造はごみ焼却灰の活用が第一の目的である。
焼却灰だけでは作れないので石灰石などの原料を加えるが、焼却灰を多くして製品のセメント量をできるだけ抑え、普通のセメントと同等の性能にするのが大前提である。
 エコセメントの定義「JIS R 5214」ではクリンカーを1d作るのにごみ焼却灰等の廃棄物を500Kg以上使用して作られるセメントとされている。
成分的にはカルシウム、シリカは少なくアルミは多い。アルミが多いと固まるスピードが速くなるので、石膏を増やして調整している。                          

エコセメントの製造フロー

 前処理工程で原料の焼却灰を乾燥し、金属類を取り除き、石灰石などの補填原料を加えて粉砕し調合する。
これをロータリーキルンに投入し1,350℃の高温で焼成する。焼却灰に含まれるダイオキシンなどの有機物は完全に分解され、排ガスはダイオキシンの再合成を防ぐため一気に200℃に冷やされる。
 重金属類が濃縮されている粉末はバグフィルターで取り除かれ、脱硝設備で窒素酸化物などを除去し大気に放出される。
バグフィルターで取り除いた粉末に含まれる重金属類は回収設備で回収され、精錬会社に送られ、金属としてリサイクルされる。

JIS化と環境配慮物品としての認定

 エコセメントは2002年7月、環境JISの第1号としてJIS化(JIS R 5214)された。
続いて(財)日本環境協会よりエコマーク商品に認定され、環境省よりグリーン購入法による「特定調達品目」にも指定された。
 今まではU字溝、道路の縁石、消波ブロック、インターロッキングブロックなどのコンクリート製品を中心に使われており、鉄筋コンクリート用のセメントとしても使用できる。


完成間近なエコセメント工場

セミナー開催の趣旨と狙い
ごみかん・市民ごみ大学セミナー事務局

 東京都多摩地域では30市町村のうち25市1町が、西多摩郡日の出町にある処分場に焼却灰や不燃ごみを埋めています。
処分場をめぐっては1990年代以降、管理運営する三多摩地域廃棄物広域処分組合(処分組合)と住民が汚水漏れや次の処分場建設問題で激しい対立を続けてきました。
現在、二つ目の処分場である二ツ塚処分場もすでに約4割が埋め立てられています。
 98年、26市1町は新たな処分場建設が困難なことから、焼却灰をセメント原料として「エコセメント化」し、処分場内にプラントを建設することを合意しました。
その後、処分組合は各議会において、自らの役割を従来の管理運営に、焼却残さなどの広域的な処理を加えることで合意を取り付け、計画を推進してきました。

 ごみ・環境ビジョン21ではエコセメント化計画が打ち出された後、処分組合に公開質問状を提出、組合主催のシンポジウムにもパネラーとして出席して、いち早く問題点を指摘してきました。
その結果、焼却灰の発生予測量を1万トン下方修正することができました。
 しかし、ごみ焼却の固定化、高額な費用負担、施設の一極集中および環境影響、多摩地域のごみ減量計画との整合性など多くの課題を残したまま、今年6月末にはプラントが稼動することになってしまいました。
ごみ減量に軸足を置いて活動するごみかんとしては、エコセメント問題の取組みが充分であったとはいえませんが、現時点でできることとして、今回、ごみ大学のテーマに取り上げました。

 セミナーにあたり、一部の会員から講師について偏りがあるとの指摘がありました。
けれども、今回は徹底討論会ではなく、関係者の話を聞いて問題点を質そうという主旨で企画したものです。
ごみかんの理事も含め会員の中には、日の出処分場反対運動を経験し、その問題意識から出発している人が多くいます。
こうした市民の動きは多摩地域に広がり、ごみ減量を進ませるという成果をもたらしました。
しかし、拡大生産者責任が重要視される中、処理施設に対する問題提起だけではごみ問題を解決することはできません。

 過去の経緯や稼動前という時期を考え合わせると、思い切ったテーマでしたが、廃棄物問題の専門家であり岡山大学大学院教授の田中勝、処分組合管理者であり稲城市長の石川良一、太平洋セメント鞄結档Gコセメントの市川光成の3氏には主旨を理解いただき、直接対話をする機会を持つことができました。

 当日の会場は多摩地域の行政職員や市民はもちろんのこと、福岡、静岡、徳島など遠方からの参加者も含め、100人近い方で会場は満席になり、関心の高さがうかがえました。
どこの市町村でも「循環型社会」を掲げていますが、可燃ごみの約30%を占める生ごみのリサイクルはまだ途上にあり、燃やさざるを得ないものも少なくありません。
「循環型社会における焼却灰の処理」は、多摩地域だけではなく全国的な課題です。
当日参加できなかった方も一緒に考えていただければ幸いです。


あとがき

 紙面の都合で質疑応答は割愛しましたが、当日は会場から多くの質問が出されました。
 多摩地域のエコセメント化問題の背景には、未だに制定されない情報公開条例、処分組合と構成自治体、あるいは市民との間で十分な話合いが行なわれていないという課題も内在しています。
また、増大する処理コストや未確定な環境影響などを考えると、処分場の延命化策とはいえ、焼却灰のエコセメント化が、循環型社会において「苦渋の選択」であることは間違いありません。

 ごみかんでは処分場やエコセメント施設に搬入する多摩地域のごみをできる限り減量していくために、情報交換の場を設定するなど、今後も多くの方と連携をしていきたいと思います。

 また、関連記事がごみっと・SUN52号に「エコセメント工場まもなく稼動・多摩の自治体が選択した新たな広域処分」と題して掲載されています。併せてご覧下さい。

 時間の都合で取り上げられなかった質問も含めて、講演、報告、質疑などを講演録として発行しました。
ご利用下さい。(頒価500円+送料160円)。


前のページに戻る
ページトップへ

エコセメント,ごみ焼却灰のリサイクル,最終処分場の延命策,エコセメント,ごみ焼却灰のリサイクル,最終処分場の延命策,エコセメント,ごみ焼却灰のリサイクル,最終処分場の延命策