ごみっと・SUN52号
ごみ製セメントで埋立て処分回避へ
エコセメント工場まもなく稼動
多摩の自治体が選択した新たな広域処分
寄稿 西多摩密着ジャーナリスト 緑川圭介


 1997年7月9日、朝日新聞夕刊に『ごみ製セメント一石二鳥 処分場長生き 無害で低コスト』との見出しで、東京都が市長会に「処分場の延命策として多摩地域の焼却灰をセメント原料にする」ことを提案したことが速報された。
埋立て処分を回避する行政の新たな取り組みが始まり、まもなくエコセメント工場が稼動するが、その経過を振り返る。

埋立て処分の回避へ始動、もう処分場はつくれない
 二ツ塚処分場建設工事を進めていた三多摩地域廃棄物広域処分組合職員は、多摩地域に
第3処分場をつくるのは困難であり、埋立てに頼るごみ処理は既に限界にあるとの認識を都清掃局内に伝えていた。
本来は多摩の各自治体の主体的事務事業であるはずのごみ処分だが、「自区内処理原則」は
過去のものとなり、あまりにも広域化した廃棄物処理は各自治体の自主性を奪っていたため、都が動かざるを得ない状況があった。
局内では、多摩地域のごみをどうすべきかの検討が急務となった。

 当時、清掃局内の技術者の多くは、将来の焼却灰処理は高温で溶融し、溶融スラグにする考えに傾いていた。
スラグはインターロッキングブロックの骨材などとして利用することが考えられたが、破断したスラグから重金属が溶出する対策が不十分で、販路が乏しいことなどが問題だった。

 そうした中で清掃局環境指導部の江渡順一郎部長(当時)は、溶融スラグより販路が期待できること、安全性がより確かであることなどの理由からエコセメント化技術に注目。
多摩地区の焼却灰はエコセメント化することを提案しようと、清掃局長、市長会会長、処分組合事務局長などに話を通し、財務局や主計局にも根回した。

 初期の処分場反対運動の中には、処分場を克服する「代替案」として「焼却灰をセメントの原料にすることで埋立て処分を終らせる」発想があった。
「エコセメント」の言葉は使われなかったが焼却灰をセメントの原料にすることは一部の人に注目された。
皮肉なことに、「代替案」は都清掃局が提起し、その実施は反対運動と対立していた処分組合が「処分場の延命」を掲げて進めることとなった。

都市廃棄物をセメントに秩父小野田技術者の挑戦
 エコセメントは、原料の半分以上に都市ごみ焼却灰を用いたセメント。焼却灰にセメント原料にできる成分が多量に含まれていることから研究されてきた。
製造過程で、焼却灰から鉄や他の重金属を回収して再利用する。

 通産省がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を通じて研究を進める形になっていたが、実質的には秩父小野田セメント(後の太平洋セメント)の研究員らが中心となって開発を進めてきたもの。
技術資料を見る限り「重金属の回収と再利用」「ダイオキシン類の分解」「塩分が含まれるが鉄筋を使わない分野での用途が期待できる」など実用化に問題はなく、実証試験を重ね、既に実用段階に入っていた。

対応の遅い行政、慎重に、かつ早急に、大胆に
 東京都は、提案後の取り組みが順調にいった場合、平成13年度に施設稼動が可能としていたが、行政の動きは遅かった。
現時点では稼動は平成18年6月が予定されており、5年近くの遅れとなっている。

 平成9年9月、多摩地域ごみ減量・リサイクル推進会議(多摩31市町村で構成)の下に検討委員会が作られ、5カ月余りの検討の結果、「早急に導入の方向性を決定する必要がある」「事業の推進には強力な執行体制が必要である」との判断が出され、処分組合がその任にあたることとなった。

 処分組合は平成11年1月「三多摩地域焼却残渣エコセメント化施設導入基本計画」を策定。
施設計画の調査、事業主体の検討、環境影響調査実施計画の策定、流通ルート(販路の確保)調査などから、この時点での事業スケジュールは平成16年度稼動とされた。

 用地選定、環境影響調査や都市計画決定などの手続きに入り、処分組合管理者の土屋正忠武蔵野市長は、限りある処分場の寿命を延ばすためにと、『慎重に、かつ早急に、大胆に』に推進すると組合議会で決意を表明した。

エコセメ工場は処分場内に
 エコセメント化工場の用地選定は、立地条件から西多摩地域が有力視された。
西多摩は戦前戦後を通じてセメント産業が発達していた。しかし、二ツ塚処分場内に決まると予想した人はいただろうか。
処分組合エコセメ担当の片岡正造参事(当時)によると、多摩地域31市町村を対象に地理情報システム(GIS)を使い第1次候補地120カ所余りを抽出。
更に、車両のアクセス、インフラ整備状況、所有権や取得可能性など具体的条件を考慮してしぼり込み調査。

 平成12年4月、二ツ塚処分場内の残留緑地部分約3万1000平方メートルでの施設建設を日の出町に申し入れた。
二ツ塚処分場内を用地に選定した理由として処分組合は「新たな用地買収を要しない」「アクセスが良い」「着工までの期間が短縮できる」「施設が処分場と共用でき、コストが少なくすむ」などをあげたが、このほかに「用地買収に手間取り予定地にトラストをつくられたら、再び税金と時間を浪費しかねない」ということも選定理由であったという。

焼却灰を掘返して原料に、JIS化で販路拡大めざす
 一旦埋め立てた焼却灰を将来掘り起こしてセメントの原料にできるか。可能であれば、さらに処分場を延命させることができる。
処分組合は平成10年11月から「焼却灰と不燃物の分別埋立てによるフィールドテスト」を谷戸沢処分場内で実施。
テスト結果から、分別埋め立てされた焼却灰は掘り起こしてセメント原料とすることが可能であると判断され、現在、二ツ塚処分場では焼却灰の分別埋め立てが実施されている。

 一方、太平洋セメントは平成11年4月から6カ月間、西多摩衛生組合環境センターで発生する焼却灰を同社実証施設に運び、製品製造のための操業を行った。
エコセメントのJIS化を行うために大量のエコセメントを製品として必要としたために行われたもの。
製品は、千葉県につくられる市原エコセメントの工場建設工事などで使われた。

 エコセメントは、塩素分の多い「速硬エコセメント」と、脱塩素処理後の焼却灰を用い塩化物イオン量を0.1%以下にした「普通エコセメント」の2種類が、平成14年7月にJIS化された。
普通エコセメントは、ポルトランドセメントに類似し鉄筋コンクリートにも使用できるとされ、販路の拡大が見込まれるようになった。

巨額の建設費・業務委託費、構成自治体の財政圧迫
 二ツ塚に持ち込まれる焼却灰の減少傾向により、施設の規模等が見直され、1日約300トンの焼却灰を処理して約430dのエコセメントを生産することに下方修正された。
二ツ塚処分場の供用期間は当初想定されていた約16年から大幅に延命され、約34年から39年となった。

 平成15年7月、エコセメント化施設整備運営事業について、設計と施工は258億9000万円で太平洋セメント・荏原建設特別共同企業体と契約、特別目的会社の東京たまエコセメント鰍ニ18年4月から38年3月の20年間の運営業務を約504億7900万円で委託した。
公設・民営の一括受託型契約(DBO)方式。巨額の費用負担は処分組合構成団体の財政を圧迫することになった。
16年1月、二ツ塚処分場内でエコセメント化施設建設着工。18年1月からエコセメント化施設性能試運転に入った。
東京電力送電線工事の遅れにより、18年6月頃、エコセメント化施設稼動の見通し。

問われる焼却処分の回避、発生抑制・リサイクル努力
 「燃やさない、埋めない」を旗印に取り組まれてきたごみ問題。
エコセメント化施設の稼動で、埋立て処分は回避されても、ごみの減量には繋がらない。
また「焼却処分」が奨励されかねない状況が生ずることも懸念される。
今後、ごみの焼却回避(リサイクル)と発生抑制への努力がますます重要になってくる。
  
完成間近なエコセメント工場
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