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ごみかん

ドイツ特派員の

理穂です

第 6 巻

 

ごみっと・SUN 53号
第31回 コンラッド鉱山が低中レベル放射性廃棄物の
最終処分場に

 
 リューネブルクの上級行政裁判所は3月8日、北ドイツのザルツギター市にある鉄鉱山跡・コンラッドを低中レベル放射性廃棄物の最終処分場とすることを妥当とする判断をくだした。
これにより約30年にわたるコンラッド鉱山の闘争に明確な法的見解が示され、将来30万トンの核廃棄物が運び込まれることになる。

 連邦政府は1976年に放射性廃棄物の埋立地としてコンラッド鉱山の調査を依頼。
1982年には低中レベル放射性廃棄物の最終埋立地として申請し、ニーダーザクセン州が2002年5月に許可した。
ドイツで初めて法的に認可された核廃棄物最終処分場である。

 しかしこれに対しザルツギター市とフェッフェルデ村、レンゲデ村、また農家二人が州を提訴したが、敗訴となり、原発に反対する人々の間に大きな失望が広がっている。

 国が決定したことを州レベルで覆すことは法的には無理なのだが、2002年の認可まで州はあらゆる手段を使って試みてきた。
1998年に連邦政府与党となった社会民主党と90年連合・緑の党の連立政権は「低中レベルと高レベルの処分場を分けるのではなくひとつにすること、強力候補地として挙がっているゴアレーベンの岩塩層が高レベル放射性廃棄物最終処分場として本当に適切か調査しなおすこと、別の候補地があるかどうか検討すること」という見解を打ち出していた。

 ハノーファー出身の当時のゲハルト・シュレーダー首相は2000年4月、法的整備だけでなく実際に電力業界との合意がかかせないとの見解から、連邦政府と業界による「原子力エネルギー・コンセンサス協定」を締結。
脱原発を宣言した。
これにより寿命のきた原子力発電所から随時止め、新しい原発を建造しないことを決めた。
再処理済み核廃棄物を同州ゴアレーベンの一時貯蔵所で保管した後、最終貯蔵地に移すことになっている。

 しかし州は2002年、国の命令によりコンラッド鉱山をいよいよ認可せざるをえない事態に。
認可しなければこれまで8億ユーロを投入してきた電力会社に賠償しなければならないことから、国も州もその責任をとろうとしない。認可は遅れていたが、ついになされることになった。

 今回の裁判で法的正当性が裏付けられ、最終処分場としてゴーサインが出たことになる。
環境大臣のジグマー・ガブリエル(社会民主党)は大臣になってまだ100日ほど。
ザルツギター地域を選挙区とし、これまで一貫して「ニーダーザクセンを核のトイレにしない」といい続けてきた。しかしこの判決を受け、大臣として最終処分場を認可しなければならないという苦しい立場に追い込まれている。

 30年前から激しい反対運動が繰り広げられ、ガブリエル環境大臣をはじめレベッカ・ハルムス欧州議会議員(緑の党)やクラウスペータ・デーデ州議会議員(ニーダーザクセン社会民主党)など同地域の反原発運動から育ってきた政治家も少なくない。
最終処分場への搬入は2012年以前はないとしているが、遅くとも2030年には稼動していなければならない。
ドイツ初の核廃棄物最終処分場がザルツギターに造られるのか、全国が注目している。


ごみっと・SUN 54号
第32回 強制デポジット制が5月改正に

 
 使い捨て飲料容器の強制デポジット制が5月に改正となった。
アイスティーなど炭酸の入っていない清涼飲料水が新たに対象となったほか、飲料容器は購入した店以外でも返却できるようになる。
消費者には便利になるが、何が対象容器なのか、ややこしいのは変わらない。
同制度はもともとリユース瓶の利用促進を目的としているが、本来の意図からはずれているとの批判もあり、議論を呼んでいる。

 強制デポジット制は、リユース容器(何回も洗浄して使用できる瓶やペットボトル。
リサイクルはガラスやペットボトルを粉砕して新しく作り直すため、リユースとは違う)の利用を増やそうと2003年1月に導入された。
強制デポジット制が5月改正にコーラやビールなどの炭酸入り飲料とミネラルウォーターが対象で、ワインや牛乳、オレンジジュースなどは含まれない。
今回の改正でジントニックなどのカクテル類や炭酸の入っていない清涼飲料水が新たに対象となった。
デポジット料は一律25セント(37円)のまま。

 2003年の導入により、大手スーパーでは独自のプラスチック容器を開発し、ミネラルウォーターやソーダを販売、回収。
リユース瓶より軽く、独自ブランド商品のため値段が安いとあって、瞬く間に広がった。

 これまで購入した店、または同系列のチェーン店のみ返却が可能だったが、5月からは200平方メートル以上の店舗では同系の商品なら、他社製でも回収の義務が生じる。
そのため小売店が集まって、制度改正に対応するためDPGドイツデポジットシステムを設立。
共通のロゴを作り、個々の独自ブランド商品に電子チップを埋蔵した。
これによりどのスーパーで製造されたのか区別でき、デポジット料金の公平分配が可能となる。

 同改正にともない、全国で4万台の自動回収器が新たに設置され、業界の投資は15億ユーロとなる。市民一人当たりの負担も年間2〜4ユーロ(300〜600円)増えると試算されている。
回収の負担増から、大手ディスカウント店では飲料缶の取り扱いを一切やめたところもある。


 どこでも返せるという便利さは、使い捨て容器の利用を増やすことにならないのか。
本来の目的であるリユース容器の増加にはどう貢献するのか、など課題は山積み。

 街かどのいわゆるコンビニでは未だデポジットなしで、缶コーラやアイスティーのペットボトルを販売しているところもある。

 環境保護の観点から導入された同制度だが、
なかなか思うようにいっていないのが実情だ。

参照:DPGドイツデポジットシステム(DPG Deutsche Pfandsystem GmbH )


ごみっと・SUN 55号
第33回 ワールドカップとごみ

 
 1ヶ月にわたるサッカーワールドカップドイツ大会が7月10日で終了。ドイツの盛り上がりようはずいぶんすごいものでした。
ハノーファーにも4万9千人収容のサッカースタジアムがあり、韓国対スイス戦、メキシコ対アンゴラ戦など5試合が行われました。
試合の日は応援団が詰めかけ、街は一気にインターナショナル。会場そばのワーテルロー広場には大スクリーンが設置され、全試合を放映しました。
2万人が無料で立ち見できるとあって、雰囲気は抜群。周囲にも人があふれ、勝つたびに大声援が上がりました。

 5月より街角のゴミ箱には「ゴール!」とかかれたシールが張られました。ゴミ箱の手前11mには「11m」のシール。
ゴール付近で反則をした場合、11m手前から再キックとなるPK戦をドイツではそのままに「11m」とよぶためです。
 シールにはそれぞれキックをする人形が。ゴミ箱が近くにあることを「11m」シールで示唆し、サッカーにからめてポイ捨てを防ごうというものです。

 このシールはハノーファーごみ事業所独自のもの。
広報のコペルケさんは「社員で知恵を出し合った。これによりポイ捨てが少しでも減ったと思う」と話しました。
清掃社員がこのシールを使ったチョッキを着たり、ゴミ箱上部にゴール網を張ったり、サッカー気分を盛り上げました。
 しかし、人の数が増えるのに比例してごみの量も増大。
ハノーファーごみ事業所によると、期間中、約2倍の量になりましたが、街中やワーテルロー広場での清掃を強化し、増量は事前に予想していたため、処理もとどこおりなく、増量分は焼却して乗り切ったといいます。

 それにしてもワールドカップの盛り上がりは尋常ではありませんでした。ドイツが勝利した日は一晩中あちこちで大騒ぎ。車はクラクションを鳴らし、ドイツを称える歌が響きました。サッカーがドイツ人に一体感をもたらし、勝つことで自信を与えるという感じ。
日に日に、街にドイツ国旗の数が増え、サッカーのユニフォームを普段着とする人が増えました。ドイツが準決勝で敗れたとき、街から活気が消えうせ、ワールドカップなど存在しないかのような静けさが数日続きました。
しかしなんとか3位決定戦で勝ち、カーンがゴールキーパーとしての有終の美を飾り、無事ワールドカップは終了。ドイツ人のサッカーにかけるエネルギーを体感した一ヶ月でした。


ごみっと・SUN 56号
第34回 エコ住宅地 Oeko Siedlung

 
 ハノーファー郊外のヴェーニクセン(Wennigsen)という人口1万5千人の町に、エコロジカルな住宅地がある。2000年に完成し、33世帯に大人64人、子ども55人が住む。
若夫婦から年金生活者までさまざまで、エコな生活を楽しんでいる。
 住宅地には、車を乗り入れることができない。入り口に駐車場があり、そこに停めることになっている。
家は断熱をほどこした低エネルギー住宅で、木造。表面にはしっくいを施している。雨水をためてトイレや洗濯、庭仕事に使う。
屋根には粘土から作ったレンガ。窓枠は木である。フローリングで室内の塗料もオーガニックなものが使用されている。カーペットは自然の素材を利用し、コルクの床にするなど細かいところまで配慮されている。
 空気変換装置が完備され、熱を逃さず、換気が可能。家の高さ、レンガの色は統一され、住宅地全体に落ち着いた雰囲気が漂う。お隣の顔の見える共同体である。

 入り口には共同の建物があり、住人たちが集う場となっている。屋根の上には太陽発電装置。
子どもの遊び場があり、広場がある。コジェネレーションで熱と電気を生み出し、全世帯の暖房と湯をまかなっている。
 歩道はレンガや木材を利用している。雨水は真ん中の池にたまり、ゆっくり流れる。屋上緑化も実施。家ごとの敷地を区切る柵はなく、歩道と私有地の境も草木が生えて自然な感じ。柵がない分、ゆったりとして見える。
 建築計画が具体化したときから、住人が建設計画に参加し、みずから素材や建築デザインを提案した。敷地は各戸200から600平方メートル、家屋は73から175平方メートルとゆったりしている。住人は団体を組織し、歩道や広場、コジェネレーションなど共有部分を管理している。

 家の造りなど基本的な部分は環境にやさしい構造となっているが、個人の生活分野は自由。
そのため肩肘張っている印象がない。普通に生活しているのに、エコを実践できるとあって、住人のマリア・ドゥンケルさんは「望んだとおりの住環境が実現でき、生活に満足している」と話している。
 隣接する区画では第二弾のエコ住宅地が計画中で、ここでは各戸に太陽発電の装置が設置され、木製ペレットの導入も予定している。
エネルギーの消費が少なく、環境にやさしいエコ住宅は、一部の熱心な運動家のものではなく、
一般の人にも広く受け入れられている。どのように生活したいか、人は選ぶ権利がある。
エコ住宅が普通に選択肢に入るドイツ。こういう住宅地はますます増えそうだ。


ごみっと・SUN 57号
第35回 危険物処理をするNGS

 
 危険廃棄物の処理について、北ドイツのニーダーザクセン州にはNGS(ニーダーザクセン危険廃棄物処理組合)がある。
州内の危険物はすべてNGSに届出され、その処理方法に指示が与えられる。
このシステムにより、州内のすべての危険廃棄物の流れが管理できるのである。

 NGSは州が51%出資し、フォルクスワーゲンなど大手企業すなわち廃棄物排出企業が25%、ごみ処理業者が23%、職人組合など組合が0.3%出資し、1985年に設立された。
州内の危険廃棄物の処理や埋立地の計画と運営、危険物処理の相談もしており、現在約50人が従事している。

 ドイツにはごみ処理の形態に、委託義務(Überlassungspflicht)と提供義務(Andienungspflicht)がある。委託義務はごみを出す義務があること。
例えば家庭ごみを自治体に出すことはこれに当てはまり、多くの自治体が一般家庭に義務付けている。
提供義務とは届出義務のことで、出たごみについて届け出なければならない。NGSはこの制度を導入している。

 危険廃棄物が届出されると、NGSはその処理方法と処理会社を指示する。
請求書は処理会社からNGSに回され、NGSはそこに7%の事務費を上乗せして、届出した企業に回す。
廃棄物処理業者にとってはNGSが大型顧客となり、NGSが各処理業者と処理コストの交渉をする。
ここで決められたコストはすべての排出者に有効なため、少量しか出さない中小企業にとっては大きな利点となる。
7%上乗せされても、手間やコストを考えると排出者全員にメリットがあるという。

 年間2トン以下の有害廃棄物しか出さない企業は、個々に届出をする必要はなく、引き取り仲介業者がまとめて請け負う。
この業者が集め、ニーダーザクセン州にはNGSにまとめて届出をする。
このような業者は州内に500あり、この中には自治体も含まれる。

 届出のさい、希望処理業者を書き添えることもでき、現在では約半数がそうしている。
希望処理会社がその廃棄物に適しているか、EUの基準を満たしているかNGSが判断する。
NGSが実際に訪問し、チェックをした業者しか許可されない。NGSは州内約35、州外約100の処理業者と契約を結んでいる。稀有な廃棄物を処理するための業者が各州にあるわけではないので、州外に多くなっている。

 このような制度を導入している州は、全国16の州のうち10州だけだが、お金の流れまで管理しているのはNGSだけ。
ごみの流れとともにお金の流れも制御できるとあって、全国的に最も発展したモデルとして注目されている。
ごみ処理会社で不適切な処理が行われた場合、ごみを出した企業だけでなく、NGSにも責任がある。そのためNGSは3ヶ月ごとに実際にどのごみがどのように処理されたのか、処理業者に報告を義務付けている。

 ごみの処理には「実際に処分されるまで排出者の責任はついて回る」という排出者責任がドイツにはある。
いくらお金を払って委託してもその業者が倒産した場合、排出者はごみを引き取る義務がある。
不適切な処理をして環境を汚染した場合、それを戻す義務がある。
しかし、例えば埋立地ですでに他のごみと一緒にされてしまった場合は、その証明が難しい。
その場合は、州が処理や環境再生を引き受けることになる。
NGSはこのリスクを減らすためにも有効である。


ごみっと・SUN 58号
第36回 オーガニックブーム

 
 2006年はオーガニックブームが本格化した年でした。
ディスカウントの食料品店でも扱うようになり、需要が一気に拡大。
特に有機栽培の小麦やジャガイモ、肉の供給不足は2007年もおさまりそうにありません。

 ヨーロッパ全体のオーガニック製品の3割を生産しているドイツ。
供給が追いつかず値段が高騰し、ジャガイモは2倍、小麦は3倍(例えばペルトコムギは1トン400ユーロ)となっています。
原因は昨年の春が寒く、夏が暑すぎたこと。
またオーガニック食料品の需要は15%伸びたにもかかわらず、耕地は5%、農家は2.5%増加したに過ぎません。

 有機栽培農家として出荷するには、細かく定められた栽培基準を満たしていなければなりません。
普通の農家が有機農家に転向するには、3年の移行期間が定められており、この間は
オーガニック栽培をしているのにかかわらず、それを名乗ることができません。
この間は州より補助がでますが、ニーダーザクセン州では昨年まで1ヘクタールあたり274ユーロを、今年から137ユーロと半額にしました。
また有機農法への転換を促進するさまざまな補助政策も打ち切られることになりました。

 ハノーファーでは毎週、オーガニック市が立つなど盛んです。
けれど市場やオーガニック店での野菜や肉は高いうえ、わざわざその店舗に足を運ばなければ
いけないこともあり、一般の人が敬遠しがちだったのも事実です。

 しかし昨年より安売りスーパーやドラッグストアが、従来より低価格で置くようなり、ぐっと身近に
なりました。野菜や卵、肉はもちろん、有機栽培した原料をもとにしたクッキーやワイン、加工食品も人気です。
健康志向とあいまって一気にブームとなりました。

 ディスカウント食料品店では有機ジャガイモの5割、ニンジンでは7割が販売されており、これまでと違って生産者同士の連帯が重要になってきました。
また輸入のオーガニック製品も増えており、地元産をおびやかしています。
有機農法にわざわざ転換しなくても採算が取れている現状では、ブームに生産が追いつかない
状態。

 ニーダーザクセンでは1996年末日で503軒だった有機農家は、2005年末日には1,118軒と増加していますが、補助が減らされた今、これからどこまで伸びるのか。
ブームにのって有機栽培が広がれば人にも地球にもやさしいのになあと思いつつ、私も以前より
頻繁に有機パスタやお菓子を楽しんでいます。


田口理穂 ごみかんドイツ特派員


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