岐阜市、豊島、青森・岩手県境の巨大不法投棄現場の教訓

     不法投棄どうする
寄稿 ジャーナリスト 杉本裕明

 

 環境省が4月にまとめた不法投棄されながら撤去されずにいる産廃は全国で約2,500件、把握できた量だけで約1100万立方メートルにのぼる。業者に撤去を命じても資産がなかったりで、税金を使っての撤去になりかねない。
最近、岐阜市で52万立方メートルを超える巨大不法投棄が発覚した。岐阜市、香川県・豊島、青森・岩手県境…巨大不法投棄現場の3カ所を訪れ、解決策を考えた。

 
住民が立ち上がった豊島

 56万トンの巨大不法投棄事件に見舞われた香川県土庄町の豊島は人口約1,200人、約14平方キロメートルの小さな島だ。
巨大な選別工場が建てられ、隣では掘り起こして集めた産廃と汚染土壌をパワーショベルが混ぜ合わせる。海岸線に出ると、遮水シートが一面を覆い、廃水処理施設で浸出水を処理している。
 選別工場で選別した産廃と汚染土壌はコンテナ船で同じ香川県の直島に運び、県の溶融処理施設で中間処理、できたスラグは公共事業の路盤材などに使う。

 しかし、今年に入って爆発事故が起き、しばらく停止した。県廃棄物対策課は「産廃から水分を抜くために生石灰を混ぜていたが、反応を起こして水素ガスが発生、爆発したようだ」という。
 96年に初めて訪れたときは、香川県を相手に起こした公害調停が佳境に入っていた。小学校の講堂で開かれた集会で、弁護士だった中坊公平氏が、「なんで産廃の処理まで引き受けないかんと思うと悔しいけど……この案をのむしかないのです」と泣きながら説得した。
現場には幾つかボーリングした穴があった。刺激臭が鼻をつき、真っ黒なシュレッダーダストの分厚い層が見えた。

 四半世紀にわたって不法投棄と闘ったのが廃棄物対策豊島住民会議だ。自治会を母体にし、自治会長3人が議長団を構成、若者たちが事務局を担い、重要なことは住民大会で決めてきた。「豊島の心 資料館」は、不法投棄した業者の事務所を住民会議が改造し、産廃やパネルを展示し、訪れる市民に説明している。
 産廃処理業者が県の許可をとって豊島に汚泥や木くずを持ち込み始めたのは78年。まもなく業者は、廃車の解体時に出る有害性の高いシュレッダーダスト、廃油、廃酸などの有害産廃を持ち込み、野焼きしては埋めた。取り締まりを求める住民に、県は「金属回収だから産廃に当たらない」と説明した。
 兵庫県警が業者を摘発した90年、住民たちは住民会議を結成、産廃の調査と撤去を求めた。「排出事業者に有害な産廃を撤去させたので環境への影響はない」という県に、中坊公平氏の助言と応援を得て公害調停を申請。
座り込みやデモ、陳情、座談会などを展開した。

 そんな住民の姿に厚生省の幹部は心を揺さぶられた。「何とかしたい」。大蔵省(当時)とかけあって予算を確保し、大がかりな調査を実施。やがてダイオキシンや有機塩素化合物、重金属による土壌、地下水汚染が発覚すると、公調委は一気に「撤去」に傾いた。  2000年に調停が成立、昨年暮れから国の補助金を得て10年がかりの撤去と直島の溶融施設での中間処理が始まった。一部とはいえ、19の排出事業者から3億8千万円の解決金も得た。
 住民会議の議長団の1人、増子征夫さん(65歳)は「若者や子どもが環境の大切さを学べるような事業ができないか、跡地の利用方法も含めて考えたい」と話す。

 
排出事業者の責任追及した青森・岩手

 青森・岩手県境の不法投棄現場。丘陵地に牧草地が広がる。民家はなく、産廃を隠すのに絶好の場所だ。遮水シートが一面を多い、雨が浸透するのを防ぐ。
今年度から現地に産廃と汚染土壌を選別する施設を造り、両県はそれぞれ県内のセメント工場や溶融処理施設で処理する。こちらも豊島同様10年かけての長丁場だ。

 当初の両県の調査では木くず、廃プラスチック、樹皮、汚泥など比較的有害性が低いと見られていたが、後に発がん性のあるテトラクロロエチレンが入った大量のドラム缶が見つかった。
投棄が始まってまもなく住民から青森県に通報があったが県の反応は鈍かった。投棄が岩手県側に及んだ98年9月に同県職員が発見、県警が内偵に入った。二戸市の小原豊明市長は「青森県がもっと早く手を打っていれば…」と悔やむ。
 その岩手県も不法投棄を知りつつ業者に業の許可更新を認める誤りを犯していた。両県はその後第三者の検証委員会を作って報告書をまとめ、当時の職員らを処分した。両県は1年がかりで約1万社の排出者を割り出し、首都圏を中心に10回以上説明会を開き負担を求めたが、応じる企業はなかった。

 これまでに廃棄物処理法違反で7社に撤去命令をかけたが、撤去量は10.5トンにとどまる。「廃棄物処理法で排出者責任を問う注意義務違反の適用は難しく、まず委託基準違反など明白な違法行為の調査を確定してからでないとやれないことになっている。
法律とは別の方法で排出者責任を追及できないか、広く検討したい」と、岩手県産業廃棄物不法投棄緊急特別対策室の平井省三主査は話す。

 処理は青森県と岩手県が別々に行う。当初、遮水壁を造って現地での封じ込めを目指した青森県と全量撤去を決めた岩手県とで処理方針が異なったことが尾を引いた形だ。撤去量が大量にのぼる青森県は費用負担からの判断でもあったが、その後、知事が替わったこともあって、「全量撤去に方針を転換」(青森県)した。

 
岐阜市でも巨大不法投棄

  県道沿いに山が見える。高さ約70メートル。頂上に廃プラスチックが積み上げられ、産廃の選別施設と焼却炉もある。業者は、焼却と破砕の許可しかないのに97年から産廃で沢を埋め始め、土をかぶせて残土に見せかける行為を繰り返し、この3月、やっと県警が強制捜査に乗り出した。
市のボーリング調査では、コンクリートがら、石膏ボード、木くず、廃プラスチックが深さ49メートルまで埋まっていた。

 近くの集会所で3月末、住民説明会が開かれた。細江茂光市長が「みなさんにご迷惑をかけた。何としても解決したい」と頭を下げた。
だが、市幹部が「業者から残土と説明を受けていた」と話すと、住民は「何を見ていたのか。産廃を埋めていたのは住民ならだれでも知ってる」と怒った。

 発端は、県が指定した保安林に業者が89,000立方メートルの産廃を不法投棄したこと。10年以上前のことだが、県は撤去命令を出しながら、「すぐにはできない」と業者に言われ、7年間猶予していた。
 さらにこの産廃の大半が残土と一緒に業者の保有する別の山林に運ばれ、埋められた。県はどこに持っていったか確認しなかった。業者を知る産廃業者は「パワーショベルで焼却灰や建設廃材と残土とこねてダンプカーに積んでは運んでいた」と証言する。
 産廃を積み上げ、上に土をかぶせた山が住宅地に迫った。近所の住民は「土ぼこりがひどい。不法投棄を何とか止めて」と市に陳情を繰り返した。市は何回も立ち入り調査し、撤去するよう指導したが「これは残土」と説明する業者に強い姿勢をとらなかった。

 今、元市幹部は打ち明ける。「明らかに産廃だったが、業者は恐ろしく、社長の親類には有力市議や県議がついていた。」
 ここで産廃の埋め立てが終わると、97年から元の場所での不法投棄が本格化した。ある市職員は「立ち入り調査のたびに怒鳴られ、身の危険を感じた。指導どころじゃなかった」と話す。
 市は5700万円かけて環境調査を実施中で、当時の行政責任を検証する委員会も発足した。しかし内輪の組織で、どこまで真実に迫れるか不透明な部分もある。

 
無過失責任を

  環境省は昨年産廃特別措置法を制定し、産廃の撤去、処理費用の2分の1から3分の1を国が補助することになった。適用された豊島と青森・岩手県境の2件の総事業費は計約1150億円。県の起債の7割を地方交付税でみる制度も含め、事業費の半分から6割が国の負担だ。
 岐阜市は「市の手に負えない」(細江市長)と、同法の適用を期待するが、環境省は「同法は新たな巨大不法投棄を想定していない。安易な税金投入はモラルハザードを招く」と、市にまず、業者と排出者に責任追及するよう求めている。
 闇に紛れて山奥に捨てるケースを除き、多くの場合、業者は「リサイクル品」「一時保管」「残土」のどれかを主張し、産廃の不法投棄ではないと言い訳し、行政が強い態度をとらないうちに産廃の山を築いてきた。

 環境省は、紛らわしい3つの言い訳を許さないために判断条件を変更しては法改正や通知を繰り返してきた。しかし、こうした対処療法はとられても、国は、排出事業者責任に大胆に切り込む姿勢は弱い。
2000年の廃棄物処理法の改正で、委託料金が不当に安いなどの注意義務を怠った場合は排出事業者の責任も追及できるようになったという。しかし、岩手県の職員が嘆くように実際には使い勝手の悪い、いわば絵に描いた餅だ。

 結局、公害事件のように無過失責任(排出者に瑕疵がなくても責任を持たせること)を法律にきちんと位置づけるしかない。それを担保するのが自動車の自賠責のような強制保険の制度ではないだろうか。
 市民には自治体のチェックもさることながら、産廃行政に携わる職員が孤立せず、毅然とした態度をとれるよう応援も求めたい。岐阜市の職員が漏らした「怖い。政治家の無言の圧力があった」という証言は多くの自治体の職員が経験していることなのだから。


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