寄 稿
PCB広域処理の現状

ジャーナリスト 杉本 裕明

  トランス、コンデンサーなどに使われる有機物質PCB(ポリ塩化ビフェニール)の広域処理が動き出した。特殊法人の環境事業団が全国5カ所で処理施設の建設計画を進めている。

  だが北海道室蘭市では当初の計画を大幅に増強し、東日本一円から集める方針を環境省が打ち出して住民から反発を買ったり、事業団による独占的な高コスト体質など問題点は山積みだ。
 

PCB廃棄物の処理はなぜ遅れた
  燃えにくく絶縁性に優れ広範囲に使われてきたPCBは、68年にPCB混入の食用油の摂取によるカネミ油症が発生、73年に化学物質審査・製造規制法で製造・輸入が禁止された。
  しかし、使用中のPCBは規制の対象外で、使用をやめても処理方法が確立していないことなどを理由に各事業所の保管となった。廃棄物処理法の規制はかかっても実際には通産省の外郭団体の管理下で実態調査すら満足に行われなかった。
行方不明になるPCB廃棄物は絶えず、環境中のPCB濃度は横ばいを続けるなど環境汚染の懸念が高まっていた。

  住民の強い反対で処理できず、ずるずるときたPCB処理問題がここにきて急に動き始めたのは「外圧」である。
01年5月、PCB、DDTなど12物質の使用禁止と適正処理を加盟国に義務づけるPOPS条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)が採択され(政府は01年6月にPCB廃棄物処理推進の特別措置法を制定、条約違反の保管から処理へと梶を切った。

  法律は、保管する事業者に国への届け出と処理を義務づけ、2016年までに国内のすべてのPCB廃棄物を無毒化処理するとし、03年にPCB廃棄物処理基本計画を策定、各都道府県も今後処理計画を作る。


 

環境事業団による5ブロック分割
  当初、県などに広域処理センターを作らせようとして挫折した環境省が次に考えたのが特殊法人・環境事業団だった。
法人の見直し論議で事業団は廃止の運命にあった。同省は「事業団にPCB処理のノウハウはないが、生き残らせるためにはこれしかない」(幹部)と事業団が国の補助金や借金で処理施設を造り、事業所の持ち込む廃葉物の処理を担う、今の仕組みが持ち込まれた。

  だが、事業国にPCB処理のノウハウは何もない。大学教授ら専門家を集めた委員会でメーカーの技術を評価し、ブロックごとに入札を行い、建設を任せている。
かかった費用は全部、全国均一料金に上乗せされ、 1トンのPCB処理に数億円かかる。
  当初、全国を8、9ブロックに分けるはずの計画は、結局5つになった。その先頭を走るのが北九州市。
事業団が新日鉄から買った市北部の響灘の埋め立て地で急ピッチで建設工事が進む。
156億円で新日鉄が受注した1期事業は日処理量0.5トン。6月には試運転に入る。隣では新日鉄が溶融炉を建設、PCB処理後の残さや基準以下の汚染物を燃やす。

  2期工事は当初日6トンを計画していたが、その後、需要がないことがわかり2トンになりそう。
「当初試算した時に使った資料が誤っていたから」(事業団)というが、「国家プロジェクト」のわりに、計画はあまりにずさんだ。

  国からの申し入れを受けた市は安全性と情報公開を前提に了解、翌年、130回の市民説明会を開催した。
安全監視委員会の設置など新たな方式は他の自治体のモデルにもなった。
委員の1人、津田潔さん(67歳)は「会社で公害問題に取り組んだ経験を生かしたかった。全国の処理施設を見学して理解が深まった」と話す。

  ただ、中国、四国、九州の17県の廃棄物を受け入れることに「こんなに広げたら危険性が増す」(「響灘を危険物ごみ捨て場にするなの会」代表の南部和見さん)との声もある。
当初、九州だけのPCBを処理するはずが中国地方の立地が難航し、北九州が一手に引き受けたという事情もある。

  反対運動側はPCBに含まれるダイオキシン類の連続測定装置の設置を要望しているが、「サンプリング器にすぎず、その期間の平均値が出るだけで、仮に高い値が出ても原因究明の役に立たず、お金がもったいない。」(自治体技術職幹部)と自治体側専門家の評価は辛い。


 

環境事業団による広域処理施設整備の進捗状況
 認 可 日稼働予定日処 理 能 力
北海道事業2003年 2月2006年10月0.2→1.8トン/日
東京事業2002年11月2005年11月2トン/日
豊田事業2002年10月2005年 9月1.6トン/日
大阪事業2003年 2月2006年 6月2トン/日
北九州事業2001年11月2004年12月0.5トン/日


北海道では反対運動が
  県内でのPCB処理を考えていた自治体が、環境省に頼まれて広域化に踏み切るパターンは他でも同じだ。
東京都では独自に検討会を作り審議していたが、いつのまにか千葉、埼玉、神奈川3県の分も引き受けることになった。

  室蘭市もそうだ。当初は道内分だけの処理計画で住民説明会を済ませ理解を得た。
ところが昨年11月に環境省が東北、北関東、甲信越の15県分の受け入れを要請し、
日0.2トンの処理計画が一気に1.8トンに。
市の本間久大・企画課主幹は「技術基盤のあるところはここしかない。雇用機会も増える」といいながらも、「また一から説明会のやり直しだ」と不満を漏らす。

  説明会では規模拡大に反対する意見が多く、市民団体が反対の署名集めを始めた。
環境省の森谷賢・産業廃棄物課長は「東北などで立地のめどがたたず、15年度で処理を終える目標を達成できない恐れがでたのでお願いした」というが、同省やや事業団が立地が決まらない地域の自治体を誠心誠意、説得した形跡はうかがえない。
  広域化の矛盾がこんなところにしわ寄せされている。


 


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