ドイツに学ぶ環境教育
エコステーション館長、ベルクマンさん
がやってきた

 

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エコステーションは、1986年にフライブルク市の環境教育施設として設立され、
 ごみ・環境ビジョン21でもお馴染みの環境NGO『BUND』が運営しています。

年間約200クラスの幼稚園児や小学生を受け入れて実践的な
 環境学習を行っているほか、市民の環境意識を高めるために情報の
 提供や講習の場として利用されています。

日本からの見学者も多く、雑草を茂らせた屋根、南側一面のガラ
 ス張リ、丸太な組んだ八角形の屋根…一度見たら忘れられない、
 ユニークでエコロジカルなエコステーションは、ドイツの環境教育を
 語るには欠かせない施設です。

日本でも環境学習の重要性が認知され、各地でさまざまな取り
 組みが試みられている中、FOE Japanがエコステーションの館長で
 あるベルクマンさんを招いて講演会とワークショップを企画しました。

ごみかんはこの企画を後援し、参加者を募るほか、武蔵野講演の準傭会に参加するなど
 協力を続けてきました。

17年間の実践に基づいたベルクマンさんの貴重なお話や、屋外でのワークシヨップを
 体験して、環境学習はもちろん、学校や行政とNPOの協力関係など多くのことを学びました。

参加できなかった方のために、今回は特集に代えて、ベルクマンさんに密着した特別報告を
 お届けします。

 

. 報告 1
講演会  エコステーション・フライブルクの実践
ごみかん理事:吉崎洋子
.

  鮮やかなブルーのジャケットでオリンピック記念センターの国際会議場に颯爽と現われたベルクマンさんは、よく整理された平易な言葉で、多様な活動の実際とそれを支える理念を語りました。

 

BUNDと
エコステーション
  1980年代…チェルノブイリの原発事故や、スイス、フランスでの化学工場の事故、河川の汚染等が起き、各マスコミが毎日のように環境問題を取りあげていた。ドイツでは<森林が死んでいく>という危機感があって、市民運動が活発化し、緑の党が設立され、環境省がつくられた。

  そして、教育のための施設の必要性から、86年、ドイツ連邦庭園省が、公園整備のなかでエコステーションを建設した。エコステーションに関わる実際的なモデルとして、フライブルク市とBUNDが運営していたが、87年放火により焼失。市が再建し、BUNDがその運営を担うこととなった。
今は、年間1万2千人が訪問し、350の企画で、地域全体の活動拠点となっている。

 

エコステーションと
ビオガルテン
  エコステーションは建物自体が教材。北アメリカの原住民の建物スタイルで、屋根には草を生やし、土壁で内装は近くの黒い森の丸太、床はコルクで、天井は古紙の断熱材、ドアは再利用品である。
地面に半分埋めることでの外断熱、太陽の暖気による暖房を取り入れている。


エコステーションの外観

ソーラーパネル


エコステーションの内部


  隣接して野外にビオガルデンがある。薬効別に分けて人間の五感全てが刺激される薬草園、多品種を混ぜて栽培している野菜畑と堆肥場、木と木の間隔を取ってその下で牧草を育てる多品種栽培の果樹園、ミツバチや虫の棲み家のための土壁などがあり、造園のマイスターとボランティアによって手入れされている。


木枠のコンポスター

野生ミツバチの産卵用ボード

 

さまざまな
環境プログラム


緑の数室
  ひとクラス20から25名の子どもたちが、学校の先生の希望により特別授業として受ける。
この教窒で伝えたいのは、自然体験の大切さ。
現代の生活の中で、もう一度自然と出会い、自然のすばらしさに感激してもらいたい。
自然を知り愛する者が自然を大切にするのだから。

  環境教育とは、単に知識を与えるものではなく、頭と手と心を使うもの。自ら何かをすることが大切。孔子の言葉にあるように「聞くより見ること、見るよりすること」である。
たとえば土をルーペや顕微鏡を使って見ると、手の平一杯の上の中には地球上の人間より多い生物がいるのだ、と実感できる。

  別のプログラムでは、健康な食事をチーマに、野菜の種まきや収穫を体験し、有機野菜のラベルの見方を学ぶ。五感ゲームをしたり、ミツバチのためのボードを各家庭に設置したりなど、多様な企画がある。

ごみに関する学習
  ごみを減らすことが一番大切、次がリサイクルで、最後が環境に負担の少ない処理であることを学習する。ごみを減らすことは、楽しくないと実践されない。
スーパーでの買い物ゲームで、ごみの出ない買い物をしたり、どこから来た食べ物かを知る。

  自分たちで紙を集めて再生したり、生ごみをコンポストにして自然のサイクルを知り、自然界にはごみはないことを実感する。ごみをテーマの劇を上演したり、リサイクル施設の見学で認識を深める、などなど。

 

公教育での
取り組み
 90年代以降、ドイツではエコ学校の設置に取り組んでいる。教師、生徒、用務員の全員で省エネを実行、削減した経費の半分が学校に返され、そのお金は自由に使うことができる。
フライブルクでは、半分の学校が参加し、20校でソーラーパネルが設置された。また、校庭からコンクリートを追放し、自然素材の遊具を置くなどもしている。
幼稚園においても自然体験は大変重要。『森の幼稚園』は、建物はなく、天候にかかわら ず森の中で過ごし、そこにあるものだけで半日以上遊ぶ。

  2000年に私たちがドイツを訪れた時、もう充分実現しているように見える環境への取り組みが、一層の熱意を持つて進められているのに驚いたものでした。
ベルクマンさんの発言に何度か出てきた「ドイツが一番良いわけではない」という言葉は、<完全ではない>という謙虚な自覚こそが日々の地道な努力を生み、小さなことを丁寧に積み重ねて揺るぐことのない成果へとつながるのだ、とのメッセージのようでもありました。


 

. 報告 2
ワークショップ  ベルクマンさんの“緑の教室”
ごみかん理事:江川美穂子
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  よく晴れた朝、すがすがしい空気を深呼吸しながら、原宿駅から代々木公園に入る。これからエコステーションの“みどりの数室”のプログラムを体験すると思うだけで、日常の景色も違ってみえるから不思議。

  受付をすませてしばらくすると「ごみっと・SUN」の連載「Rihoのドイツ便り」の執筆者、田口理穂さんが現れた。今回はワークショップの通訳としての参加だ。
2000年のドイツの旅がよみがえって、一瞬ドイツにいるような錯寛になり、再会を喜びあっているうちに、いよいよベルクマンさんの登場で、ワークショップが始まった。

  日本全国から集まった30名ほどの参加者が、木の下でベルクマンさんを囲み、話に耳を傾ける。
自然を感じることは、あえて自然の中に出かけなくても、街中の家のベランダの一つの鉢からでもできます。自然の美を感じ、そのことに自分自身が喜びを持つことで、初めて子どもたちにも伝えられるのです。

  人は自分の好きなもの、愛するものだけを守ることができるのです、ベルクマンさんのこのシンプルな言葉が、環境学習とは何かを見事に言い表している気がした。
頭ではなく五感で体験することで、自然はどんどん自分に近づき、私たちは自然から力をもらっている。
  ベルクマンさんのワークショップやお話から印象的なものを拾ってみた。

木をテーマに
  木の枝の一番先の真下に立ってみよう。その大きな円まで木の根っこは、広がっている。この見えない部分で、水や栄養を吸い上げ、 1本の木は1日で8人分の酸素と400リットルの水分を湿り気として空気に与えている。

  この本から落ちたもの、本にやってきた動物が残したものを探つてみよう。
▲木の肌に紙を当てて鉛筆でこすり模様を写す。実や葉を並べて展示する(本のミュージアム)。
▲ある1本の木を決めて1年を通して観察し、日記につける。
▲人間の何世代分も生きる木は歴史の証人。馬車が走っていた時代や戦争も体験している。
▲「木との出会いゲーム」…たくさんの本があるところで、目をつぶった人の手を引いて、
  1本の木に案内する。
  目をつぶつたまま木を手で触って特徴をつかんだら、元の場所に戻り、
  目を開けてどの木だったかを当てる。

  このゲームで、手でしっかり木に触りその感覚をもとに探すという体験をしたら、その木に特別な親しみを感じたのにびっくり。

音の地図
▲好きな場所に腰を下ろし、10分間、目をつぶって、聞こえた音をあげていく。
  耳をすまして集中することで、たくさんの音が聞こえてくる。

ペアを見つける
▲両手を後ろに目をつぶって、輪になる。自然の中にあった枝、葉っば、木の皮、
  植物などを2つずつ用意し、 1人にひとつずつ渡す。
  相手の持っているものを手で触って、自分と同じ種類のものを持っている人を見つける。

観 察
▲葉っばの分解…土の表面から下へ順番に土をお皿に並べていく。落ち葉が分解し、
  上に戻っていく様子を見せる。
▲土の中にどんな生き物がいるか探す。生き物をルーペで観察する。
▲1メートルのひも4本を四角に置き、その中の植物を観察する。別の場所でも同様に観察する。

省エネルギー
▲子どもたちに現実の問題だけを提示して、暗い気持ちを持た
  せてはいけない。
  喜びと楽しみが大事。
▲75の学校のうち25の学校で、子どもたちが「フィフティー・
  フィフティー」という省エネプロジェクトに取り組んでいる。
  節電した電気代の半分が学校に戻される。
▲おもちゃのソーラーヘリコプター、太陽の熱を感じる手づくり
  パラボラなどで自然エネルギーを学ぶ。

ごみの回避について
▲ドイツではまず、ごみを出さないことが大事。
  次が分別・リサイクル、その次にいかに環境に負荷を与えず処理するか。
▲ごみ収集のおじさんの人形「オスカー」が大人気。
  オスカーを使って、ごみはどうやったら減らせるかな子どもたちに考えてもらう。
▲テーブルの上に置かれたいるいるな物の中から「環境にいいもの、悪いもの」のペアを選ぶ。
  びんビールと缶ビール、レジ袋と買物袋、お箸と割り箸、充電式の電池と使い捨ての電池、
  リユースコップと使い捨てのコップなど。
▲「きれいなフライブルク」というデモンストレーションでは、子どもたちが町に出て、ごみ拾いを
  する。
  また「ごみを捨てないでください〜きれいなフライブルク*子どもたちより」
  と書かれた真っ赤なベンチを、一定期間ごとに移動させながら公園に置く。

  朝から一日、ベルクマンさんのワークショップを堪能し、内容もさることながら、私はベルクマンさんの思慮深いまなざしや、微笑みを絶やさない穏やかな人柄からも、多くのことを学んだ気がした。
理穂さんはじめ、久じぶりに会うごみかん会員の方もいて、楽しい一日だった。


 

. 報告 3
授業参加  五感を使ったプログラム
ごみかん理事:服部美佐子
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  ベルクマンさん武蔵野講演会の準備に集まった市民たちは、中学校に環境学習についてのアンケート調査を行ったり、先生方に講演会の参加を呼びかけました。
こうした流れの中で実現したのが市立第一小学校の「緑の教室」です。

  数室に案内され、早速ベルクマンさんの指示で5つの机を配置し、その上に物を並べました。
コルク、種子、ビン…。
何が始まるのか、大人の私たちも興味深々です。4年生2クラス(約60名の子どもたちが机に囲まれた形で床に座ると、いよいよ授業開始。
ベルクマンさんは傍らの相棒オスカーに話しかけます。

  ざわついていた子どもたちもエコステーションの話に耳を傾けています。ごみの話では「缶とリユースびんの違い」で地球を10周するという缶の量に驚いたり、ボールペンや紙など身近なものがごみになった時、どっちが環境を汚すのか、質問のやりとりをしながら授業は進みます。

  さて、「5つのグループに分かれて下さい」というベルクマンさんの合図でグループになった子どもたちはそれぞれ、机を取り囲みました。

一番目は…「触れる」
  布の下にバナナ、りんどなどの果物が隠れています。中に手を入れ、果物に触れます。

二番目は…「見る」
  コルク、石、タイル、本…植物、動物、鉱物の3種類。同じ四角の板状ですが、色や光沢などを見て、性状の違いをつかみます。

三番目は…「聞く」
  中が見えない小さなプラスチックケースを振って音を聞き、ひまわりやアサガオなど置いてある種子と同じのはどれか探します。

四番目は…「嗅ぐ」
  ハーブの入った缶の蓋を取り、目を瞑って匂いを嗅ぎ、同じ仲間を見つけます。

環境によいもの、よくないものを「分ける」
  ビン、缶、プラスチックカップ、鉛筆、ノート…。
どの机も10名以上の子どもたちが取り囲んでいるので、騒がしいのですが、ここではプラスチックカップを巡って喧々囂々、意見が分かれます。
ドイツではリユース容器ですが、よくないものと判断した子どもたちもいました。

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  日本でも各地に、環境教育施設ができてきましたが、エコステーションのように、理念をもった実践を行うNPO、NGOの運営というのは、まだわずかです。
今回の来日で、ベルクマンさんがドイツから持ってきたたくさんの数材の重さは相当なものだったことでしょう。

  教材を使ったワークショップももちろんよかったけれど、公園の一角に見事に張られたたくさんのクモの巣に、参加者を案内した時のベルクマンさんの笑顔がまたよかった。これが「緑の数室」の基本なのですね。

  「ジャパニーズ BUNDを目指して団体をつくったと聞いています。 がんばってください」とごみかんヘもエールをいただきました。
ベルクマンさん、ありがとうございました!


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