変わる?変わらない? 廃棄物処理法改正
ごみ・環境ビジョン21 三島 佳子

  現在、環境省は、来年の通常国会へ向けて、廃棄物処理法の改正案づくりをすすめています。また、経済産業省でもワーキンググループを立ち上げ、環境省に対し“リサイクルを廃棄物処理法から切り離す”ことを積極的に働きかけています。

  いったい、廃棄物処理法はどう変わろうとしているのでしょうか?
大きく変わるか? 変わらないか?

また、その落とし穴は...今後の廃棄物行政にとって重要なカギとなる廃棄物処理法改正に向けた動きをレポートします。

 

ことの始まりは …

  昨年4月、行政改革をすすめる内閣府の総合規制改革会議は、昨年7月に「重点6分野に関する中間とりまとめ」を発表しました。
  この「とりまとめ」は、医療や福祉・保育、人材(労働)、教育、環境などの今まで公的に行ってきた生活者向けのサービス分野を見直し、新規事業・雇用の創出をはかるもので、「廃棄物・リサイクル問題」(囲み参照)の具体的施策についても【早急に検討を開始し、平成14年度中にとりまとめを行う】と期限付きで指摘しています。

廃棄物・リサイクル問題についての具体的施策
@ 廃棄物の定義・区分、廃棄物処理に係る業、施設許可の見直し等
 廃棄物の定義、一般廃棄物・産業廃棄物の区分の見直しについて、その処理責任の在り方と併せて検討を行うべきである。また、併せてリサイクルに係る廃棄物処理法上の業及び施設の許可や手続の簡素化に関し、早急に見直しを行うべきである。
 【早急に検討を開始し、平成14年度中にとりまとめを行う】

A 拡大生産者責任、デポジット制の導入等
 廃棄物の発生の抑制、リサイクルしやすい製品の生産等に係る拡大生産者責任につき、従来導入されていなかった分野について導入を図ることを検討し、デポジット制の導入についても検討する。
 【早急に検討を開始し、平成14年度中にとりまとめを行う】

B 不法投棄跡地等の修復対策の強化
 不法投棄跡地等の修復対策に関し、費用負担、責任分担を明確化し、技術開発の促進や環境修復ビジネスの促進のための措置等を講ずるべきである。
 【早急に検討を開始し、平成14年度中にとりまとめを行う】

内閣府総合規制改革会議「重点6分野に関する中間とりまとめ」2001.7.24より抜粋

 

何が変わるのか … 4つの柱

  このような規制改革の動きに背中を押されるかたちで、昨年9月より検討を開始した環境省中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会は、産業界、地方公共団体、廃棄物処理業界、NPOなど26団体からのヒアリングをはじめ9回の検討を経て、今年3月22日、「廃棄物・リサイクル制度の基本問題に関する中間とりまとめ」を発表しました。

 「中間とりまとめ」の主な論点は次の4つです。
    〈T〉 廃棄物の定義
    〈U〉 廃棄物の区分
    〈V〉 廃棄物処理業・施設設置規制
    〈W〉 排出者責任と拡大生産者責任

〈T〉廃棄物の定義 ・・・・・・・・ リサイクルできるものも「廃棄物」に
 環境省は「廃棄物の定義」について、不適正処理が跡を絶たない現状から…
 ◇ リサイクル可能物も含めて不要物として廃棄されたものを広く(廃棄物に)含める
 ◇ 不要物以外のリサイクル可能物も規制対象とする方向で考えるべき
 ◇ 不要物以外のリサイクル物については、より穏やかな規制とすることも考えられる
  …と、リサイクル可能物も廃棄物に定義する方針を打ちだしました。

 この方針に対しての、産業界やリサイクル関係団体などからの「リサイクル可能物を廃棄物から除外すべき」との指摘については…
◇ 豊島事件のように、リサイクル名目での不適正処理事例が多数発生してきている
◇ 処分とリサイクルは同じような工程で行われることが多い
◇ バーゼル条約やドイツの循環経済廃棄物法などでもリサイクル可能物も含めて廃棄物を概念することが世界の趨勢である。…と反論しています。

〈U〉 廃棄物の区分 ・・・・・・・・ 事業系(一廃)は今までどおり?
@ 日常生活に伴って排出される廃棄物を「生活系廃棄物として、原則として市町村の責任の下で処理する
A 事業活動に伴つて排出される廃葉物を「事業系廃棄物」として、原則として排出事業者責任の下で処理することに区分する
  …としています。

しかし、現在の事業系一般廃棄物については、
◇ 小規模事業者が費用負担やマニフェスト等の排出事業者責任をそこまで負担できるか
◇ 産業鹿葉物処理施設の不足、不法投薬の多発の問題
◇ 従来.市町村や民間業者により遭正に処理が行われてきた
◇ 事業系一般廃葉物が生活系廃棄物と同様の性状を有する場合もある
…などの理由から「市町村が引き続き一定の責任を負いつつも、排出事業者として適正なな処理費用の負担を負うことも考えられる!(つまり、いままでどおり)としています。

 「ごみっと・SUN29号」でも特集しましたが、事業系一般廃葉物の「持ち込みごみ」は増え続けており、しかも、事業系一般廃葉物のごみ質には特徴があります。一般廃棄物のごみ問題のなかで事業系一般廃棄物の問題が大きなウエイトを占めている今、従来どおりとしてしまうのは大いに疑問です。

 また、排出源に対応した区分を基本としつつも…「同一性状の廃棄物(例:家庭から出る廃パソコンと事業所から出る廃パソコン)については同一の区分として処理できること、さらに「有書性がある廃棄物やリサイクルされる廃棄物については、一般廃葉物・産業廃棄物を問わず、独立した区分を設けること」…が示唆されています。

 拡大生産者責任という点からも、このように区分された「リサイクル可能物(製品廃棄物)」や「有害廃棄物」が生産者による回収処理の対象となるのは望ましいことです。

 しかし、一方でこの独立区分が、産業焼棄物と一般廃棄物の垣根を取り崩し、産廃と一廃の混合処理に道を開き、排出事業者責任を曖昧にされてしまうことが心配されています。

〈V〉 廃棄物処理業・施設設置規制 ・・・・・ 規制は厳格に、手続きは合理的に?
 規制改革会議や経済産業省の意に反して、リサイクルを廃棄物処理法から切り離さなかった環境省ですが、その分「手続き等を合理化」することで、広域的・効率的な廃棄物処理・リサイクルを促進することが主張されています。
 つまり、事業者が廃棄物処理やリサイクルに取組みやすくなり、民間活力が発揮されるように検討がすすめられています。

新たに手続きの合理化が示唆されているのは、次のようなものです。
◇ 広域的に移動する場合の複数の地方自治体の許可
◇ 一般廃葉物、産業廃棄物両方の許可を要する施設などの設置許可
◇ 生活環境の影響が小さい処理施設の設置許可

 規制は厳格に…と、枕詞で言いながら、手続きの合理化を推進するなかで、情報公開や住民合意がいよいよ切り捨てられるのではないでしょうか。
 また、産廃処理もできる一廃処理施設が許可されやすくなると、周辺住民の反対を無視して建設されることが懸念されます。

〈W〉 排出者責任と拡大生産者責任 ・・・・・ ごみ有料化と拡大生産者責任の強化
環境省が排出者責任について打ちだしたのは次のようなものです。
@ 一般廃棄物のごみ有料化、分別排出の徹底
A 市町村が自ら処理すべき廃棄物が他の市町村の区域で処分される場合、排出元の市町村の責任を強化
B 不法投棄の処理に要する費用の負担は…
 *一般廃棄物は生産者にも一定の役割を求ある
 *産業廃棄物は産業界からの費用徴収の方法を含め費用負担を検討する

 一般廃棄物について、不法投葉に対しての生産者責任や排出元の市町村の処理責任が指摘されたと同時に、ごみ有料化が重要な政策としてあげられました。
 一方、拡大生産者責任については「他の政策手法と比較しつつ、より一般化、拡大・強化していくことが必要」と位置づけられました。
 対象物には、市町村における適性処理が困難な物や、設計・製造段階での工夫により排出抑制やリサイクル・適性処理が促進されるようなものがあげられ、「生産者」は物の性状に応じて、製造事業者だけではなく販売事業者なども広く対象とすべきことが示唆されました。

具体的手法としては…
@ 製品の引取りと処理等
A デポジット等の経済的手法
B 一定率以上の二次原料の再利用等の製品規格に関する措置
…などがあげられ、これらの手法を法的に義務づける方法として、生産者の自主的取り組みによる方法、これらを組み合わせる方法が考えられるとされています。

 

経済産業省のよこやり

  リサイクル可能物も廃棄物と区分した環境省に猛反発しているのが経済産業省です。
  経済産業省では、今年3月より産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会循環ビジネスワーキンググループを立ち上げ、現在(1998年)環境産業の市場規模21兆円、雇用規模88万人を、2010年には38兆円、136万人に成長させるべく、エコタウン事業をはじめ、新たなビジネスチャンス「循環ビジネス」が円滑に創出・発展できるよう検討を加えています。

 ワーキンググループでは、環境省が「中間とりまとめ」を発表する直前に、環境省中央環境審議会 廃棄物・リサイクル部会あてに「リサイクル対象物をなるべく『資源』としてとらえ『廃棄物(ごみ)』としては扱わない方向が検討されるべき」、「リサイクルについては、廃棄物処理法としてではなく、リサイクル関係法制によって適正なリサイクルが担保される方向が検討されるべき」といった内容の廃棄物処理法への意見書を送付したり、環境省の部会委員に説明に回るなど積極的に働きかけています。

 これに対して、環境省は「このような指摘は、廃棄物の定義の問題ではなく、むしろ、廃棄物処理法の体系下でリサイクルに係る規制をどの程度合理化するかという問題である」と切り返しています。

 

これからの廃棄物行政のゆくえ

廃棄物問題の根本解決である発生抑制を実現させるためには、生産と廃棄物処理・管理を一本化させ、産業界に直結するシステムの構築が不可欠ですが、それ以前の問題として省庁のなわばり争いや縦割り構造を改めなければなりません。
 「中間とりまとめ」には総数1,813件もの多数のパブリックコメントが寄せられ、特に意見が集中した廃棄物の定義については「リサイクル可能物も廃棄物に含める又は何らかの規制を行うべき」との立場からの意見が245件、「リサイクル可能物は廃棄物から除くべき」との立場からの意見も254件提出されました。

 また、その後の部会で、非鉄金属業界などから「廃棄物に含めないこと」を強く求める意見も寄せられています。
 環境省では今年度中の最終とりまとめを目途に検討を進めていますが、関係団体の声ばかり響き、市民不在で決定されていくことのないように、私たち市民も今後の動向に注視し、声を出していく必要があります。


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