ごみっと・SUN 29号
中東ごみ事情 2 シリア

…これからやってくるごみ問題…

田浪 亜央江

 前回、シリアの人々がいかにゴミを出さない生活を送っているか、ということを強調しました。
今回は、それとは反対に見えることを書きましょう。

シリアの農家の軒先

 シリアの「ゴミの少ない生活」は、特別にゴミを出さないために工夫して生み出された生活スタイルではありません。モノを多く持たず、ゴミを生みやすい加工食品に頼らないのは、経済事情が強いているという側面も強いわけです。
 環境のことを考慮して「ゴミを出すのは良くない」と考える人なんて私の知る限り皆無ですし、そもそも「ゴミ問題」が意識されていません。
ゴミを分別して出す、ということが行政から指導されてはいないので、それも当然だと言えます。「ゴミを出す日」も決まっていないようで、ゴミ捨て場には数日間スイカの皮や鶏の骨が放置されていたりするのですが、乾燥した気候のためか、あまり臭わないのは幸いです。

 環境問題からは外れますが、「公共のマナー」という観念とも良かれ悪しかれ無縁な社会なので、ゴミのポイ捨ての類は全く問題にされません。
ヒマワリやスイカの種を煎ったものはシリア人だけでなく中東一帯で好まれている間食ですが、殻を路上にこぼしながらポリポリとやっていても、誰も文句は言わないでしょう。
 モノが豊かでないために、モノへの憧れや渇望感は強烈に存在します。また、ささやかな商品とはいえ新しいモノが入ってくると、それに対する免疫も強くないような気がします。
 ティッシュペーパーをむやみやたらに使う人が多いのは、日本と同様か、それ以上です。
派手な格好の女優さんが何人も歌い踊りながら、ティッシュを次々に引き抜いてゆくコマーシャルもありましたっけ。

 お店で雑貨などの買い物をすると、こちらが要らないと言っても「タダだから気にするな」などと言って強引にビニール袋に入れてくれたりします。
この場合、あちらのサービスを受け取らないのは失礼になってしまうようです。
 少なくとも私が滞在していた96年までは食品ラップやアルミホイル、タッパーウェアの類は存在していなかったのですが、これがもし比較的安価に出回れば、みんな競って使うようになるのではないでしょうか。
今のところ、残り物の皿をそのまま冷蔵庫に入れてしまうので、食べ物がぱさぱさになってしまいます(人によってはお皿を逆さにして蓋にするなどの工夫をしていますが)。私自身シリアにいる間、ラップがあればいいのにと何度思ったことか。
 しかしゴミの出ることに無頓着に使われてしまうとしたら、それは苦々しい光景でしょう。

 一方でこちらがモノに囲まれた便利な生活を送っていながら、シリアの人たちに「こんなふうになってくれるな」なんて言うのはずるい話です。
そうではないようなかたちで、日本の私たちの経験をいかに伝えていけるのかということについては、しばしば悩んでいます。

筆者紹介
東京外語大アラビア語学科を経て、
一橋大大学院言語社会学科在学中。
これまでにシリア・ダマスカス大学に2年間留学。
イスラエル・ハイファ大学に短期留学


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