ごみっと・SUN 28号
田浪 亜央江 私は大学でアラビア語を勉強し、92年以降、留学も含めて何回かシリアやヨルダン、パレスチナ(自治区)、イスラエルなどに足を運んでいます。必ずしもゴミ問題に深い関心があったわけではないのですが、中東の人々の暮らしざまから垣間見たゴミ事情について、気づいたことをお伝えしたいと思います。
そのせいもあって物価は安く、モノに溢れた日本社会に比べると、非常にシンプルな生活が主流です。ですからシリアのゴミ事情についてまず挙げるとすれば、ゴミとなる素材自体が圧倒的に少ないということになるでしょう。 家庭ゴミに関して言えば、食品の容器の類がゴミになることがほとんどありません。主食のパン、これは田舎では家庭で焼く家も多いですし、近所のパン屋さんに買いに行くならば、焼きたての熱々を、持参した皿やトレーに何枚も重ねて持ち帰ります。 牛乳はバケツかビンを持参して買い、家庭でヨーグルトやチーズを作ります。 肉類も店頭で部位や切り方を指定し、同じく持参した容器に入れてもらうのが普通です。お茶やコーヒー、香辛料の類も量り売りですから、ビンやプラスチック容器などは、必要なしです。 要するに容器に小分けされた加工食品の類が極端に少ないということになります。冷凍食品などは存在しますが割高ですし、自分で作った方が美味しいというわけ。 野菜類はその旬の時期に大量に買い入れ、保存できるような形に調理した後ビニールに小分けして冷凍し、冬に備えます。 こういうことを行う女の人たちの労働力は大変なものですが、しかし家庭の主婦が一人で孤独に調理をするのではなく、親戚同士や近所同士の女性たちが、誰かの家に集まって調理作業を分担して行う、という光景は一般的です。 とは言え、仕事が一段落すればお茶を飲んでお喋りを延々と続け、さらに一緒にテレビを見てからのおいとまだったりするのですから、例えば日本の共稼ぎ世帯の場合のように、時間に追われた生活とは無縁な生活スタイルでなければ、できることではありません。
いずれ経済の速度が速まり、彼女たちの生活スタイルが変わってゆくならば、調理時間が少なくて済む加工食品が浸透してくるのかなあ、という想像もしないではありません。 筆者紹介 東京外語大アラビア語学科を経て、 一橋大大学院言語社会学科在学中。 これまでにシリア・ダマスカス大学に2年間留学。 イスラエル・ハイファ大学に短期留学 |