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ごみっと・SUN 27号
中国のごみ問題−3
最終回 北京「ごみ村」と市民リサイクル運動
西田幸信(東京農工大大学院農業研究科)

  最終回の今回は、中国のごみ問題における最先端の事例として、ごみ回収業を営むコミュニティと新興する市民リサイクル運動を紹介します。

 

北京の「ごみ村」

  中国には、次のようなことばがある。「種田不劃算、在城市里拾 也比在農村種地強」「拾荒拾荒,拾成小康」(「農業は割に合わない、街へ行ってごみを集めたほうがまだましだ」「ごみも集めつづければ、少し余裕のある生活ができるようになる」)
どちらも、中国における都市―農村の経済格差を示すものである。事実、農村からの出稼ぎ労働者には、回収業など所謂3K労働に従事せざるを得ない場合が多い。
北京には多くの流入人口のコミュニティが存在しており、それぞれ地縁関係で結びついている。
旧貨市場とは有価物のフリーマーケットを意味するのだが、一つの旧貨市場内に複数のコミュニティがある場合もある。

 「馬坊旧貨市場」の河南省出身者部分は、各々が世帯あるいは親戚ごとにごみを回収している集合体である。
一方、四川省出身のグループは、全体的として地縁的、血縁的企業共同体として位置づけられる。つまり、儀龍、巴中という共通の出身地からなると同時に、「老板」と呼ばれるリーダー、次いでその血縁者、その下に非血縁関係の労働者に地位が分けられる。
そして、収集した有価物の量によって「老板」から賃金が与えられるという構造である。

 非政府部門の個人経営の廃品回収はこのように存在しているわけだが、これと前号で紹介した、行政によって整備された廃品回収の市場規模を示したのが下表である。

年度再生物資
回収公司
個人経営合計
1987165,88468,000233,884
1988135,450115,580251,030
1989127,693153,600281,293
1990109,780183,300293,080
1991102,158193,100295,358

  改革・開放後、都市−農村の経済格差が広がり出稼ぎ熱が一気に高まった80年代末から90年代初めを期に、廃品回収業における個人経営が占める割合が、行政部門のそれと逆転している。
このように中国都市部におけるごみの静脈産業・リサイクルは農村出身の出稼ぎ労働者によって支えられていると言える。

中国における市民リサイクル運動

  ごみ問題が深刻になりつつある一方、中国でもごみ分別収集の市民リサイクル運動が始まっている。
 「北京地球村環境文化センター」(以下「地球村」)という、1996年3月に設立された環境NGOがある。このNGOの呼びかけで、96年4月から北京市西城区の「大乗巷家属委員会」で分別ごみ収集の試みが始められた。
 その後、97年には同市宣武区の「槐柏樹小区」や学校でも同じような試みがなされ、99年4月には同区の「白紙坊主街道藍菜園建功南里小区」でも行われ始めた。その後、「宣武区環境衛生局」に訴えかけ、宣武区全区の「再生資源分類センター」でごみ分類が行われるに至っている。

  「地球村」は、さまざまな環境保全のとりくみを行っている市民団体である
。リサイクルに関するとりくみのほか、緑化、動物保護、公共交通、有機農業など多岐にわたって活動している。
具体的には、テレビ番組や環境教育テキストの製作、講演会の主催や参加、ボランティア活動、有機試験農園での野菜作りなどが挙げられる。
廖義女史が主宰するこのNGOは、彼女を含めほとんどのメンバーが海外留学の経験があり、留学時に培った環境保全意識から、帰国後NGOを組織することになった経緯がある。

  民主化の過程で生まれてくるのが、NGOやNPO、あるいはCSO(Civil Society Organization:市民社会組織)などであるから、民主化の発展途上にある中国は、それらの定義も現在確立過程であり、市民団体の定義が定まっていない。
現在、中国におけるNGOは「民間組織」と言われており、広義では政府と企業を除くものとされている。
すなわち「社会団体(社団)」、「民弁非企業単位(民非)」、「事業単位」そして「宗教団体」である。狭義では、そのうち「社団」と「民非」を指す。

  「地球村」はその中の、「市民が自主的に組織し、会員の共同意志実現のため、その定款により活動を展開していく非営利の社会組織」である「社団」に属する。
「民非」などには、行政側の人間が兼任していることが多いことに比べ、西側のNPOに近い存在と言える。

  最も早くごみ分別活動をはじめた「大乗巷家属委員会」は、91年に正式に成立した「家属委員会」である。
つまり、教育部という「単位」(前号参照)が、所属する労働者に保障した「教育楼」(小学・初級中学・高級中学の教師の居住区)の自治組織である。
「地球村」のメンバーの一人がこの「家属委員会」出身であり、380世帯、1,200人という比較的小さな組織であったこと、そして教育部所属という教育水準が比較的高い居民であったため、いち早く環境保全のとりくみをはじめることができたと言える。
この末端の自治組織は委員選挙を実地するなど、ある程度自治を達成しているものの、基本的に中央政府からの「権利の受け皿」として位置づけられよう。

  しかし、このごみ分別回収によるリサイクル活動開始の経緯は、自律的判断の下実施された。
このように、中国における市民リサイクル運動は、活動母体としての凝集力を有する、下からの民主化の表象とも言えよう。
つまり、中国におけるNGOと都市基層自治とにおけるごみ分別回収は、中国においても高まりつつある環境保護と、民主化という2つのベクトルの接点として位置づけられる。


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