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ごみっと・SUN 25号
中国のごみ問題−1
【現状と法的対策】
西田幸信(東京農工大大学院農業研究科)

  今回は中国のごみ問題の現状と対策について述べてみたい。

 

「四害」と「三廃」

  中国におけるごみ問題は「四害」(四つの公害の意―大気汚染、水汚染、騒音、固形廃棄物汚染)のひとつとして取り扱われていると同時に、「三廃」(三種類の廃棄物の意―排ガス、廃液、固形廃棄物)のひとつとして位置づけられる。

 

「白色汚染」と「ごみ城」

  「白色汚染」と「ごみ囲城」という言葉がその現状を語っている。「白色汚染」とは主として「餐盒」(弁当やテイクアウト用に使われる発泡スチロールでの容器)やビニール袋の大量生産・大量消費の結果生まれたもので、その色からこのようにいわれる。
  「中国環境報」によると、「餐盒」の年間生産量は130億個以上、年間使用量も100億個以上であり、うちリサイクルのために回収されているのは3〜5%にすぎないという。
また、「ごみ囲城」とは「ごみが都市を包囲する」の意味である。これは市街で排出されたごみを地域内で処理することができず、郊外などに運ばれた結果起きている問題である。
 航空撮影の測定によると、北京郊外には7,000余もの「ごみ山」があり、そのうち直径が50m以上のものが5,000余もあるという。

 

北京のごみは大阪より多い

  また、数値データとして驚くべき事実もある。
中国における一人一年当たりの生活廃棄物排出量は、93年時点で400kgに達しているといわれている。日本の大都市のそれは約500kgである。地域間格差を考慮し北京の例を挙げよう。
96年の北京市における一人一日当たりの生活ごみの排出量は2,000gに達したが、これは同年の大阪府の数値約1,400gを上回っているのである。
これらの現状に対し、中国政府はどのような対策を講じてきたのだろうか。
本格的な中国の環境行政は、72年のストックホルム会議参加を契機としている。それ以降、中国における環境基本法にあたる「環境保護法」の試行と施行を転換期とし、始動期、整備期、 確立期と考えられるという。
以下、いくつかの特徴を指摘してみよう。(表参照)

中国における固形廃棄物関連対策


72年
73年
78年
ストックホルム会議出席
工業「三廃」排出施行基準
憲法改正


79年
82年
84年
86年
87年
88年
環境保護法(施行)
排出汚染費用徴収暫施行弁法
非鉄金属工業固形廃棄物汚染抑制基準
建築材料用工業廃渣放射性物質制限基準
工業固形廃棄物有害特性試験および観測分析法  
憲法改正


89年
90年
92年
94年
96年
99年
環境保護法(施行)
バーゼル条約批准
都市外観および環境衛生管理条例
中国アジェンダ21
固形廃棄物汚染環境防止
北京市で生活ごみ処理費用徴収開始

 

「三同時」制度と「排汚費」

 「環境保護法」では、中国環境行政管理制度を構成する「8項目の柱」があるのだが、その中に「三同時」制度と「排汚費」がある。
 「三同時」制度とは工場の新築、改装および増築などの工事を行う際は、その主体となる建設設備と予期される公害に対しての浄化装置を同時に、@設計しA施行しB操業しなければならないというものである。
 「排汚費」とは産業廃棄物において汚染物質を排出する際の、その費用および罰金の徴 収制度である。これに続き生活廃棄物においても、北京市は生活廃棄物無償回収から有償 回収に切替える条例を施行している。
 北京市戸籍の者からは毎月3元、北京市の「暫住証」(臨時戸籍)を持つ外来人口からは毎月2元徴収しており、1年で1.3億元集まると見積もられており、全て生活ごみの処理に運用するという。

 

「バーゼル条約」と「洋ごみ

 また92年に施行され、有害廃棄物の国境を越える移動を規制している「バーゼル条約」を、中国はアジアで最も早い90年に批准している。
後発国である中国は、海外から流入してくる有害廃棄物を「洋ごみ」として取り締まっている。

 

「固形廃棄物汚染環境防止法」

 96年、固形廃棄物の統一個別法「固形廃棄物汚染環境防止法」が施行された。
 その第3節、第38条には――
「都市人民政府は計画性をもってエネルギー依存度の構造を改め、都市ガス、天然ガス、液化ガスあるいはその他のクリーンエネルギーを広めていかなければならない。
 都市人民政府の関連部門は、野菜を洗って加工してから都市に入れるようにし、都市生活ごみを減少させなければならない。
 都市人民政府の関連部門は、収購網点(有価物回収センター)を合理的に配置し、廃棄物の再利用工作を促進すべく、全面的な計画をたてなくてはならない」――と規定されている。

これは夏季は、野菜のかすや果物の皮などの生ごみが多く、冬季は暖房用などエネルギーにおける石炭への依存度が高いという現状を示しており、現状を改善するための規定といえる。
  以上、中国の環境行政は先進国に遅れをとりながらも近年進展している。
にもかかわらずごみ問題が依然として深刻にあるのは、行政によるトップダウンによる対策一辺倒で、一般人民にまだ充分浸透していないのが一因と思われる。(次回以降、廃棄物市場や民間のとりくみについて述べたいと思います)

ごみ囲城」:原文ではごみを漢字で表しているが、
この漢字がないのでひらがなで表記した
  


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