川崎製鉄 ガス化溶融炉見学記
“エントツなし”でも危険はいっぱい!
服部 美佐子(武蔵野市)

 2000年度一般ごみ焼却炉の発注数はガス化溶融炉が28件で、焼却炉(ストーカー炉)の16件を大きく上回った。98年度の3件、99年度の5件と比べても、著しい伸びである。

 桜咲く4月5日、「ごみっと・SUN」 に度々登場し、気になっていたガス化溶融炉を見学した。この見学会は老朽化で建替えが浮上している二枚橋衛生組合・関係市(小金井・府中・調布)の市民が、企画したもの。瞬く間に40名近い参加者が集まったことからも、ガス化溶融炉への関心の高さがうかがえる。
 東京駅で京葉線に乗り換え、蘇我駅で下車。大型バスの出迎えを受け、数分で目的地、川崎製鉄千葉製鉄所へ。添乗した川鉄の担当者は初っぱなの挨拶で 「(これから)売込みを掛ける!」 と連呼、市場進出に乗り遅れまいとする意気込み!である。

川鉄サーモセレクト方式とは ・・・・・

 スイスのサーモセレクト社と1997年に技術提携契約をし、98年着工。99年9月から翌年3月まで千葉市の一般ごみて試運転を行なった後、現在は産業廃棄物を受け入れて稼働している。
 早速、OHPを見ながら、説明を受けた。初めて耳にする話句もあり、素人にはなかなか飲み込めない。
4っのプロセス(@ごみの圧縮・熱分解、A高温ガス化溶融、Bガスの冷却・精製、C水処理)に分かれているサーモセレクト方式の工程を、大まかに整理してみる。

@ ごみホッパーに投入
 プレス機で5分の1に圧縮 (空気を抜き、熱分解効率を上げる)、脱ガスチャンネル (外熱式熱分解炉) に送り、ごみを2時間蒸し焼き。ごみは熱分解し、水分と揮発性の有機物がガス化、残りは無機物や金属を含んだ炭化物。

A ごみが高温反応炉に入る
 下部に溜まった炭化物は酸素を吹き込むと2,000℃になり溶融される。均質槽に入りスラグとメタルに分離、回収される。熱分解で発生したガスと溶融過程で発生したガスが混ざる。1,200℃に2秒以上保ち、ガスを改質する。

B 1,200℃の改質ガスは急速冷却塔に入り70℃に急冷される
 酸やアルカリで洗浄、重金属や有毒な酸性ガスを除去。合成ガスとして回収。

C ガスの冷却水やアルカリ洗浄水を集め処理。
 重金属を金属水酸化物として、ごみに含まれる塩素から生成された塩分を混合塩として回収。

THERMOSELECT プロセス図  川鉄ホームページから

 

いざ、プラント見学へ

 さて、おぼろげにわかったところで、再び大型バスに乗り込み、いよいよ現場へ移動。見渡す限り川鉄の敷地、古びて煤けた工場群が一帯に広がる。その一角、ひときわ目立つ朱色の建物がサーモセレクト千葉工場だ。

THERMOSELECT 外観  川鉄ホームページから
 

 各自トランシーバーで説明者の声を聞きながら、さきほど聞いた説明の工程を順に追う、太いパイプや装置が連なる様を外から眺めるだけだが、ごみ処理施設というより、化学工場のイメージに近い。

 ただし、辺りに漂う臭気はかなりきつく、騒音もある。そびえ立つ円筒の高温反応炉も、内部の反応は想像するのみ。ごみどころか人までも飲み込んでしまいそうな大掛かりなプラントといったところだ。

 歩きながら、プラントの概要を聞く。建物の面積は100m×50m。150トン炉が2基。建設コストはトン当り5,000万〜6,000万円。ランニングコストはごみ1トン当り6〜7,000円。24時間連続運転のため3〜4人で3 交代、計16人が働いている。

 

聞いて、見て、ますます疑問 !

 ひと通り見た後会場に戻り、質疑の時間が設けられた。出された質問から問題点を拾ってみたい。

@ 酸素で2,000℃という高温を出すのは
 サーモセレクト方式の特徴のひとつだが、この純酸素を作るプラントは製鉄所にはあるが、自治体では新たに導入するため、とても高くつく。
 また温度が上がらない場合は助燃剤として都市ガスなどを使用する。

A サーモセレクト式のCOガスを改質し
 精製ガスにするというコンセプトは、ガスで灰分を溶融するという他のガス化溶融炉と最も違う点である。
千葉工場ではそのガスを配管で製鉄現場に送り、発電用に使っている。製鉄所であれば、酸素をもらい、ガスを送って発電するというシステムも自治体が導入するなら、ゼロから出発しなければならない。

B 1,200℃から70℃に落とす
 冷却水や飛灰を発生させずすべて水処理に移してしまうシステムのため、水を大量に使う。水処理に問題は起こらないかという疑問は付きまとう。

C 炉が緊急停止した場合
 残留ガスを然やして大気中に拡散させるのが 「放散塔」 (説明では全く触れず)である。公害防止装置なしでも安全なのか?

(カールスルーエの事故を参照)

尽きない不安と危険性

 カールスルーエの事故について、川鉄側は初め 「こういった情報は出したがらない」 と答えたが 「住民レベルでも情報が入っている」 と投げ掛けると、手のひらを返したように、話し出した。
 しかし、「小さい事故で基本的な技術とは関係がない」 「煙突から排出された重金属類については自主規制値であり国の基準を守れなかった訳ではない」 という結論だ。燥発寸前の事故を小さな事故、独の企業が自社に課した厳しい自主規制値を無視して当然のような言い分に、心底あきれる。
 「飛灰の発生がない、排ガス処理工程がない、クローズドである、ガスは精製して発電に」 など従来の焼却炉にはない特徴を謳っているガス化溶融炉だが、未知数だらけの新技術に必要なのは、事故や重金属類排出のようなマイナス情報である。ちなみに、昨年導入を予定していたスイスのティチーノ州では、サーモセレクトをキャンセルしている。
 放散塔はあるが、煙突のない千葉工場では、炉の運転が停止すれば、重金属がそのまま大気中に放出されてしまう。「これまで稼動中の事故はない、緊急停止はない」 と言い切る川鉄だが、技術のへ過信が思わぬ災害に緊がった例は、枚挙にいとまがない。

 世田谷区、三鷹・調布市でもガス化溶融炉が浮上している。企業の 「売込み!」 には要注意だ。

 
独・カールスルーエ市の事故

 南ドイツの仏国境に近いカールスルーエにあるサーモセレクトの施設は、実用プラントが1999年3月から試運転が始まった。240トン/日×3基で建設コストは日本円で約120億円。追加30億。追加工事は炉が緊急停止した場合に未撚ガスを燃やして排出する燃焼室(放散塔)では不十分なため、煙突を新設するというものである。
 1999年の12月に事故が発生。高温反応炉内部の耐火煉瓦が広範囲に亘って崩落し、洗煙装置外側の冷却水温度が異常上昇したのである。高温反応底部が高温で損傷し、爆発の可能性もあったという。その後も故障により、プラントは度々停止している。
 また、先の煙突から出る重金属の数値が規制を上回ったため、2000年8月から再び運転を休止、放散塔に蓋をし、煙突に脱硫装置を設ける改修工事に入った。現在、新たに6か月間の試験を計画中だが、この試運転に先立つテストがうまくいかず、数週間以内に再び行われることになっている。


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