ごみっと・SUN 24号
ファタンタジー作家、ミシャエル・エンデの「モモ」は世界中で読まれ、日本では76年の刊行以来150万部が発行されています。エンデはお金が本来持っていた役割を失い、投機の対象になることで人々の暮らしが破壊されていると考えました。
社会のゆがみ、環境・貧困・戦争・精神の荒廃など、きまざまな問題にお金が絡んでいます。 もう1度、貨幣を実際になされた仕事や物の実態に対応する価値として位置付けるべきだ、と考えたのです。
1昨年、NHKが放映した 「エンデの遺言」 (根源からお金を問うこと)の中で、こうした問題を解決する方法として地域通貨が紹介されました。エンデは言います。
「人間が生きていくことの全て、個人の価値観から世界像まで、経済活動と結びつかないものはありません。問題の根源はお金にあるのです。
そこで、今の貨幣システムの何を変えるべきなのか、これは人類がこの惑星上で今後も生存できるかどうかを決める決定的な問いです。
お金は人間が作った物です。変えることが出来るはずです」
地域通貨は日本では始まったばかりで、試行錯誤の途上にあり、規模も小さく充分な成果が得られた事例はほとんどありません。しかし、これからのまちづくりを考えていく上で役に立つツールであると考え、今回紹介することにしました。
たのしいね♪ 地域通貨の単位!
北海道・栗山町の “ クリン ”
宝塚市は “ ZUKA ”
神戸市灘区の “ らく ”
岡山県津山市 “ くるくる ” |
世界の年間通貨取引額は300兆ドルです。世界のGDP(国内総生産)は30兆ドル、輸出入高は8兆ドル。今、世界中で動いているお金の9割が実際の商品やサービスの取引に対応したものではなく、錬金術のごとく 「カネがカネ」 を生む単なる金融上の取引に使われているというわけです。
何もかもがお金を介在しなければ成り立たないという社会の仕組みがきまざまな歪みを生み出しました。地球という惑星の存続すら危ぶまれるほどの歪みとなって私たちに押し寄せて来ています。
大型店が進出して、まちの商店がどんどん潰れています。大型店に落とされたお金は地域に循環せず外に出て行ってしまいます。こうして地域経済は疲弊し、地域のコミュニティが失われる、こんな状況が各地で起きています。
遠く海外から輸入された安い野菜は食べられても、日の前で出来た地場の野菜を食べられないという奇妙なことが起きています。
東京だけで毎日500万食分の残飯が捨てられています。世界中から集めた大量の資源をごみにして 「捨て場がない」 と大騒ぎしているのです。お金に任せて世界中から物を買い漁り、大量に生産し、大量に消費し、大量に廃棄するという暮らしが事態を更に悪化させています。
これがお金を巡る実態です。こうして地域経済やコミュニティーは破壊されたのです。
かって、日本には結(ゆ)いという制度がありました。農家では 「田植えなどの時、労力を提供する。そして労力でお返しを受ける」 というように、お金だけの決済システムではありませんでした。
貧しいけれども、心の豊かさや助け合いの精神が地域を支えていました。適正な規模で生産し適性な規模で消費する、基本的な生活財は地域で生産し循環させ、必要なものだけを輸出入するという 「地域循環経済」 に切り替えることが求められています。
こうした現状を変える方法として地域通貨が注目され始めました。 地域通貨の歴史は古く、1832年ロバート・オーエンの 「労働証書」 などがありますが、LETS=レッツ (Local Exchange Trading Scheme、地域経済振興システム、地域交換取引制度) としてシルピオ・ゼゲル(1862〜1930、ドイツ生まれの実業家・経済学者)がアルゼンチンで提唱したのが最初だといわれています。
LETSを導入した地域では、現行の貨幣と併用して地域独自で決めた地域通貨を利用します。地域通貨は一般の貨幣とは違い、紙幣や貨幣に相当するものは発行せず、取引記録を残すための小切手や一覧表のようなものを使います。
LETSを利用するには、先ず事務局に地域で自分が受けたいサービスや物品の内容と自分が提供できるサービスや物品を登録します。
メンバーは登録された内容を元にお互いが連絡して話し合い、内容や価格を決めて取引します。取引でサービスや物品を受けた人はマイナスのカウントがつき、逆にサービスや物品を提供した人はプラスのカウントがつきます。
そのため取引記録を合計するとプラスマイナスは常にゼロになります。そしてプラスを増やしていっても利子はつきませんし、マイナスになっても利息は払いません。
オーストラリア・ブルーマウンテン地区でのレンツでは60種類以上のサービスがあり、育児、介護、料理、大工、車修理、クリーニングといった日常的なサービスから、医者、マッサージ、引越し、運転手、メンタルケアー、ヒーリング、会計士など非常に幅広くバラエティーに富んでいます。
スイスでは1934年に中小企業や商店主が生み出したヴィア銀行があります。ヴィアという単位で、スイスフランと同じように使われています。スイスの企業総数の17%、76,000社が参加しています。
地域通貨は法定通貨にとって換わるわけではなく、地域通貨が地域限定なために法定通貨も地域通貨の取引に付随する形で使われるようになります。つまり法定通貨も外に行かず、その地域の中で使われるようになるわけです。
地域通貨や法定通貨が地域社会の中で回れば物は地場で回るので輸送コストも減るし、環境にもよくなります。地場生産や地場消費も進みます。
現在、地域通貨は世界2,000ヶ所、国内では千葉県「ゆりの木商店会」の「ピーナッツ」や、滋賀県草津市の「おうみ」、大分県湯布院町の「YUFU」などがよく知られていますが、実験中も入れると全国で約106地域で導入されています。
地域通貨にはさまざまな特徴と可能性があります。
1.今までのようにハード優先のまちづくりではない もっとソフトなもので人間関係のあり方を変えていく。地域に埋もれている才能、能力、意欲、やる気を引き出す。本物のお金を間に挟むとやり難いことがスムーズに出来る。
2.市場競争至上主義が揺らぎ 生活の基盤は地域にあることが再認識され始めている中で、地域通貨はコミュニティー再構築の道具として、また地域経済を支える方法の一つになる。
3.参加者は自ら労働し生産する人であるとともに消費する人でもあり 両者の結びつきによって自立型のコミュニティーが徐々に形成される。
4.特定の地域内で行われることから 地域内資源循環型経済システムを構築することが出来る。
5.消費パターンは大量消費から 地域の生産力やサービス提供力の範囲内での「持続可能型消費」へと転換していく。
6.基本的な生活財はその地域で生産し消費するという 「地域循環型経済」の生産方式に切り変わっていく。
山形県長井市では地域通貨に近いシステムが行われています。家庭から出る生ごみを市が分別収集して、コンポストセンターで堆肥にして、市内の農家にその堆肥で有機野菜を作ってもらい、それを市民に売り出しています。以前は取れた野菜は大都市部の市場へ直行して、地元の人は食べられなかったのです。台所と農業をつなぐレインボープランは非常に評判が良く、まちづくりのモデルとして注目されています。
行政も関わりながら地域社会の中で資源の循環が行われている例です。
愛媛県では地域通貨活用モデル事業を立ち上げ、年間5団体に各30万円の補助を始めました。
その一つ、「わくわくアイランド大島」 では、元気なお年寄りは公園の掃除をして 「ワクワク通貨」 1点をもらう。その得た通貨は電球を取り替えて欲しいとか、何か助けが必要なときに使う。
そういったサービスを受けたい時には玄関の前に黄色いプレートを出しておく。すると誰かがそれを見て声をかけてくれる。こうして、やさしいコミュニティーが作られていきます。
東京都でも 「東京都21世紀商店街づくり振興プラン」、戦略6の中で 「エコマネーを導入した地域活性化戦略」 を提案しています。
余談ですが、村上龍の小説、「希望の国のエクソダス」 にもEX(イクス)という地域通貨が登場します。
介護保険の導入や福祉制度全般の後退の中でNPOなど民間団体の自主的な介護関連事業への参加が増えています。ボランティア的な要素を残しながら街づくりに参加しようとする人が増えています。
ちょっとしたお手伝いをしてもらって、何かお礼をしたいが現金だと大げさだし、ボランティアの意味がなくなる、とせっかくいい事をしたのになんかぎこちない関係になってしまったという経験を持っている方はたくさんいます。こんなとき地域通貨を使うときっといい関係が出来ると思います。
具体的にどのように使うのでしょうか、考えてみましよう |
私たちは一貫して経済を成長させることが幸せになれる唯一の方法だと思い込まされてきました。そして、そのことを実現するためといって私たちはたくさんのものを失いました。
地球という惑星の存続すら危ぶまれるほど、人々の心や自然を傷つけてしまいました。 「もうこれ以上経済が豊かにならなくたっていいじゃないか」、「お金では買えない、人と人との結びつきや地域のコミュニティーを大切にした暮らしに変えていこう」、と考える人が増えてきました。
利潤の追求と競争を基本とする企業は社会が必要とするもの全てを提供することは出来ません。それとは別の連帯や協働を行動原理とする経済の営みが必要です。そうした役割を担う物として地域通貨が注目され始めたのです。
利潤の追求と競争を基本とする企業の論理と地域通貨に代表されるような連帯や協働を行動原理とする経済が並存するような多元的経済社会を実現することで、本当の豊きにつながる地域循環型社会の姿が見えてくるのではないでしょうか。
きあ、無理をせず楽しく、地域通貨にチャレンジしましょう。
あゆみちゃんは たまったダラーを 文房具屋さんでノートを 買う代金として使います | あゆみちゃんは肩たきがじょうず 隣のおばあさんの 肩たたきをしてあげます 30分 = 10ダラー | 地域通貨の名称 ダラー 1ダラー = 10円 |
おばあちゃんは 足が悪いので ゴミを出してあげるの | おばあさんは子供を集めて 昔話をします 1人30分で5ダラー | こんな所でも使えるよ リサイクルショップ フリーマーケット ボランティア |
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参加している100世帯 から週2回 水切りバケツにいれた
→ 生ごみを受け取り 月100ダラーを渡す | グループは 市が斡旋してくれた
→ 公園や農園の一隅で 生ごみを堆肥にします | 出来た堆肥は ↓ |
↑ ごみ減量のため 生ごみの堆肥化に 取り組んでいる グループへ | | 市民や農家に 10Kg 20ダラーで 販売します↓ |
↑ 市はごみ処理費用の 削減になるので それに見合う額を 生ごみの堆肥化に 取り組んでいる
グループに補助します | これからは 商店の参加を増やしたり PTA、町内会、子供会 への働きかけが課題です | 取れた新鮮な野菜も ダラーで買えます
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K市の取り組みはとても参考になりますね。
地域のコミュニティを育て、ごみを減らし、安心して食べられる食材を手に入れ、 目をきらきらと輝かせた子供達があぜ道で遊んでいる。
どこかで読んだことがある!
と思われる方が多いと思います。・・・・・・そうなんです
私たちが発行した絵本 『 いのちのまちをつくる ・・・ ゴミのへらしかた』 に描かれている
光のあふれる“ いのちのまち ” は町のおおくの活動にこの例が生かされているのです。
エッ! まだお読みになっていない
こちらで紹介していますのでお立ち寄り下さい。
☆ 参考文献
1.エンデの遺言(河邑厚徳+グループ現在 NHK出版)
2.地域通貨入門(森野栄一<監修> あべよしひろ・泉留維<共著> 北斗出版)
3.愛媛県「地域通貨活用モデル事業の事業実施団体の決定について」
4.地域通貨LETS ホームページ http://orixa.coco.co.jp/orixa/ende/letsende.html
5.地域通貨おうみ委員会 ホームページ http://www.kusatu.or.jp/
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