市民ごみ大学 セミナー 2003 実施報告 1


検証・多摩地域のごみ焼却施設整備
焼却炉過剰の時代がそこまで来ている!?
開催日 2003年 6月29日

 

杉本裕明(朝日新聞記者)さんのお話

  環境全般をやり始めて10数年。 環境庁のクラブ記者当時、廃棄物は面白いと思ったが、ごみは厚生省(当時)の担当で、環境庁はやれなかった。
名古屋本社に転勤、岐阜県御嵩町町長襲撃事件、住民投票、産廃不法投棄の問題を追った。
98年東京に戻る。
2000年省庁統合で組織の再編となり、ごみ問題(予算管理の権限)が環境省管轄となる。それまでの環境庁の予算は800億円。2,000億円近いごみ予算は、厚生省の水道環境部が管理していた。

焼却施設のむだ造りについて

☆ いかにむだをしているか
     1995〜2000年間に国から補助金を得て、建て替えや新設を行った166の自治体と一部事務組合(複数の自治体で構成)に、アンケートを送り、113(7割)から回答を得た。
  建て替えでは、72施設が炉を大きくしており、そのうち13施設は2倍以上の規模だった。
前と同じは20、縮小は11、都市部では名古屋市が900tから1,500tへ、大阪市が600t×2が
900t×2へと増強、新設では、横浜市1,200t、福岡市900t、京都市700t。
東京都も自区内処理の原則を掲げて大型施設が造られてきた。

☆ 大きくなって、施設の稼働率はどうなっているか?
     好ましい稼働率といわれる80%以上の稼働率は、
大きくした51施設の炉では22%、
同規模・縮小の19施設は42%で、
炉を大きくした施設の稼働率が低下する傾向がうかがえた。稼働率が低い理由は二つ。
一つは予測した以上にごみの量が少ないこと(容器包装・家電リサイクルで自治体の滅量施策がすすんで来ている)、
もう一つは最初から複数の炉のうち1炉を予備炉として遊ばせていることによる。

☆ なぜ過大な施設が進られるのか?
     補助金と地方交付税の仕組みが元凶。
数百億円もする施設造りで自治体が頼りにするのが、国の補助金である。
計画が認められると、建設費の25〜50%が補助され、残りの約1/2が地方交付税で手当てされる。
  将来の人口とごみ量の予測を甘くして、ごみが増えても安心な大型施設を求めがちになる。
公共事業の政・官・業のトライアングルがここにも存在する。

☆ 減量に取り組む自治体に恩恵を
     なにもせず巨大な炉を進る自治体に巨額の補助金が出る今の国の画一的な制度はおかしい。
ごみ減量に取り組み、小さな施設を選択した自治体ほど恩恵が受けられるような政策に転換しないと、むだな施設造りは改まらないのではないか。
  市民団体も「税」の適正な使い方という点からの動きに欠けてもいる。
これからは「民主主義〔自区内処理〕」と「効率性(広域処理)」のバランスをどうとるか、今余っている過剰施設を共有化していくには、どう考えるかが求められる。

 

鈴木直人(循環資源・環境ビジョン研究所代表)
さんのお話

  87年からコンサルタントの仕事をしている。杉本氏からもコンサルと焼却炉整備の話があったが、私の最初の仕事も焼却炉の建設問題だった。
千葉市で日量600tの炉を造る話に反対運動があり、450tの炉に見直し、市民との合意を得ていく仕事で寄本先生の手伝いをした。

多摩地域の焼却施設のゆくえ

☆ 多摩地域のごみの現状
     リサイクルはすすんだが、“総ごみ量”は減っていない。特に事業系ごみが急増している。
年間約105万tのごみが焼却処理されている。この量はほとんど横ばいである。
ここ10年のリサイクル率は7%→20%と3倍増しているにもかかわらずである。
「焼却+リサイクル」が埋め立て処分量の削減に有効とされ、最終埋め立て量は46%減少しており、埋め立て量削減が特に行政側の施策の中心として進められてきた。

☆ ごみ量と焼却処理能力の今後
     現在は多摩地域全体を単純に合計すると、施設の処理能力には1.7倍もの余裕がある。
仮に今後古くなった焼却炉が廃止されるだけで全く焼却施設の新設がないとすれば平成24年頃には、焼却能力が不足する。
  しかし、もし「有料化推進」「生ごみ資源化」の2つの発生抑制のシナリオを適用すれば平成30年頃まで焼却能力は不足しない試算となる。
全くの試算ではあるが、「現在は足りている」という事実を出発点に「発生抑制」と「今ある焼却能力を生かし、無駄な税金をかけずに維持する」を多摩地域全体として取り組み、検討していかねばならない時期にきている。

☆ これからの方向性

焼却施設の問題点の整理
● 健康・安全面
  SOx、NOx、HCL等の大気汚染物質、ダイオキシン、焼却灰・飛灰中の重金属、車両の排ガス
● 都市計画面
  100年の計がない都市計画、ある日突然施設がくる。よそのごみまで受け入れている。
● 行財政面
   なんでも自治体の公共施設でごみに対応することは不可能。
生産者・排出者の責任のありかたを根本から考えるべき。
多摩地域焼却施設の今までの総建設費1,900億円は1世帯11万円の税金負担。

● 人間社会の持続性
   地球上の生存条件を考えると焼却は異常ではないか。
プラスチックはもとに戻らず環境負荷がかかるため、「焼却してエネルギー回収すればよし」ではなく、直面する課題は「プラスチックを含む化石燃料の総使用量の抑制」であり、プラスチックを燃料に代替しても地球環境問題の解決にはほとんどつながらないと留意すべきである。
  地球環境の関題は、かっての「資源の枯渇」ではなく、「捨て場の枯渇」であり、廃熱、二酸化炭素の捨て場がなくなってきて、温暖化、砂漠化が現実化してきたのである。

ベクトルを変えよう→少量焼却社会ヘ

● 多摩地域全体で「脱焼却」を図りながら
   焼却施設を縮小していく共通目標・共通ビジョンを検討する。
「脱焼却」を出口でとらえず「循環プロセス」のなかでとらえる。
「脱焼却」の全体目標をたて、総論と各論をつなぐ戦略が必要となる。
(焼却施設をこれ以上ふやさない。広域化をすすめ、受け入れ割り当てをする、または個々の施設を縮小する。コスト・用地・公平性・輸送距離)

● 発生抑制をどのようにすすめるか
   各地域の取り組みと広域連携。地域間のアイデア。事業系ごみの発生抑制が問題。広域的枠組みの設定(税・課徴金の検討・デポジット制度)の検討

● 施設設備計画にどのように市民参画をしていくか
   用地選定や基本設計段階からの参画ではなく、構想・計画段階のはじめから参画するべき。
「戦略的環境アセスメント」(SEA)と称する市民参画のあり方を制度的に位置づける必要がある。
複数案の提案、よリベターな政策の形成、100年先までのまちづくりを考えた選択を、市民参画でときほぐすとなると上記の共通ビジョンづくりが大切である。

まとめ:ごみかん会員 伊地知仁子


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