市民ごみ大学 セミナー2002 講演録

第3回 ごみを売らずにサービスを売る!

“環境経済政策と拡大生産者責任” 

自己紹介
講師
千葉大学法経学部助教授
倉阪 秀史 さん
  
  私は、環境庁で11年間、国の政策をつくるという仕事をやっておりました。手がけた法律の中には『環境基本法』や『環境影響評価法』があります。
また、今は『資源の有効利用の促進に関する法律』と名前が変わりましたが、1991年の『再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)』にも環境庁の担当者として関わりました。当時は入庁4、5年目の係長でした。
  そのときに、私が中心になって原案を書いたのが、1990年の『環境保全のための循環型社会システム検討会報告書』です。
早稲田大学の寄本勝美先生が座長でしたが、この報告書ではじめて「循環型社会」という言葉を使ったと記憶しています。
  当時は、「循策型社会Jという言葉が基本法になるとはまったく思っていませんでした。
あのころの環境庁は、ごみ行政担当であった厚生省や通産省から、つまはじきされていたというのが、正直なところです。
なぜ環境庁が「リサイクル」「循環型社会」と言い出したのかまったくわからないと言われていました。
  私の前任者はリサイクルをやっていたわけではありません。地球環境に関する政策を担当していました。あのころの肩書きは「企画調整局企画調整課企画係長」というものでしたが、わたしが配属になった1990年7月にちょうど「地球環境部」が創設され、前任者の仕事がそちらに移ったのです。
局長に、自分の任務を聞きに行ったところ「おまえはリサイクルを立ち上げてくれ」とのことでした。
よその省庁は、実績もないのになんだというた受け止め方だったのでしよう。

  私は、大学のときは「環境経済学」を勉強していました。大学を卒業するときに「環境」で食べていきたい、一生「環境」で暮らしたいと思いました。
当時は大学院に進むか環境庁に入るかしか選択肢が思い浮かばなかったのです。たまたま環境庁が採ってくれるというので、環境庁に進みました。5年くらい環境庁にいて、あとは大学に戻ろう、という軽い気持ちで入りました。
環境庁で仕事をすると、いろいろ政策を立ち上げることが案外おもしろくなり、結局11年いたことになります。
  その間『環境基本法』と『環境影響評価法』を手がけて、十分働いたのではないかという気になり、初心に戻ってやりたかったことをやろうと大学に戻ったわけです。

講演のポイント
  そのやりたかったことの一端を、今日お話しようと思います。
  今までの経済学は、環境問題を取り扱うためには適切な枠組みではない。だから、新しい経済学が必要だ。それは近代経済学やマルクス経済学とかいうものではなく、もう少し新しい視点で、経済学を組替えていかなければいけないのではないか。
…そういう考えを、学生時代から持っていました。その考え方をようやくまとめたのが、今回出した本です。私はのんびりした方で、なかなか仕事にかからない人間なのですが、構想7年、執筆1ヶ月という経緯で本になりました。

  今日の話は、4つの部分から成り立ちます。
第一に、環境を守ることとはどういうことかという点です。
第二に、環境の限界が見えているかどうか、現状認識にあたる私の考え方をお話したいと思います。環境に感心がある方がお集まりなので、これらの部分は簡単にすませていきたいと思います。
第三に、新しい経済学について解説します。
経済学はこれまでどういうところがまずくて、どういうふうに改善していくべきか、ということをお話します。この中で、『サービスの缶講論』という概念が出てきます。
最後に、新しい政策として、新しい考え方に基づいて具体的に何をしなければいけないのかということをお話します。そこで、今回副題としました「環境経済政策と拡大生産者責任」の話をしていきます。

  以下の講演内容は、見出しのみ紹介

1.「環境を守る」とはどういうことか
 (1)環境を守ることとは
   @「環境」や「環境問題」をまともに定義している本は少ない
   A環境を守ることはどういうことか
    <自然に手を着けないことが一番良いいのか>
    <人間はいないほうがいい?>
    <原始的な生活に戻る?>
    <江戸時代、昭和30年代なら?>
 (2)人間の経済と環境
   @人工物
   A環境・自然
   B自然からの三つの恵み
    <資源・エネルギーの供給源として>
    <不要物の吸収源として>
    <生活の場を提供する機能>
 (3)環境問題とは
   @人の活動に起因する
   A人の活動に影響する
   B物理的、自然的な環境が介在する
 (4)環境を守ることの目的
   @人が健康を害さない
   A社会の持続性の確保

2.環境の限界は見えているか
 (1)資源の供給可能性
   @枯渇性資源     <石油資源の予測>
    <ヒューバート曲線による予測>
    <天然ガス資源の予測>
    <石炭資源の予測>
    <二酸化炭素による地球温暖化>
   A更新性資源
   B食糧生産
 (2)技術的ブレークスルー(飛躍)の可能性
   @原子力(核分裂)発電
   A核融合
   Bスペースコロニー
   C宇宙発電
 (3)環境の限界
   @交易や貿易によって回避できない
   A無限のエネルギーを手にするのは幻想である
   B資源の需要を抑制することは、重要な政策的選択肢である

3.新しい経済学
 (1)環境と経済の対立?
   @資源・エネルギー消費を抑制することは、経済的に受け入れられない
   A「昔に戻るのか」
   B「電気のない生活に耐えられるのか」
   C「自然エネルギーで賄えるわけはない」
   D今の経済学のフレームで考えていることが原因
 (2)「土地(自然)」を忘れた経済学
   @アダム・スミス経済学の三大生産要素
   A差額地代論
   B「土地」はどこへ行った
 (3)「物」を忘れた経済学
   @古典派の経済学……実態を有する「物」が富である
   A限界革命
   B今の主流派経済学……財の物質的な側面を扱っていない
 (4)主流派の経済学と環境問題
   @「外部性」の一種として環境問題を把握
   A「外部性」の内部化
   B外部不経済がおこる=過剰生産→「環境を守れば経済が停滞する」理論
 (5)「物」に着目した経済を考える
   @経済活動の究極目的
   A人工物はサービスを生み出す媒体に過ぎない
   B不要物低減型の労働
   C付加価値増加型の労働
 (6)共益状態
   @環境負荷を減らしつつ利潤を増やす
   A産業を発展させてきた共益状態
    <ガソリン・重油の利用>
    <塩素の有効利用>
   B共益状態を阻害する要因

4.新しい政策
 (1)持続可能性目標の整備
   @人体の持続可能性
   A社会の持続性の可能性
 (2)企業間の競争をベースとした変革
   @政策のスタンス
   A民間企業の競争・創意工夫を原動力に持続可能性目標を達成する
 (3)説明責任の確保
 (4)環境効率性の向上
   @環境効率
   Aファクター4
 (5)サービサイズの進展
   @物を売る時代から…
   Aサービスを売る時代へ
    <農薬の販売から病害虫の駆除サービスへ>
    <灯油の販売から暖房管理サービスへ>
    <塗料の販売から塗装サービスへ>
    <機械のサービスから機能(サービス)の提供へ>
 (6)サービスの缶を引き取る=拡大生産者責任
   @拡大生産者責任に関しての補足説明
   A日本の拡大生産者責任制度の現状
 (7)設計者責任の確保
   @環境影響評価法
   A拡大生産者責任法(仮称)の可能性
 (8)永続地帯の拡大
   @枯渇性資源は集中資源
   A更新性資源は分散資源
   B「永続地帯」
 (9)誘導型政策の実施
 (10)環境行政と資源エネルギー行政の統合
   @新しい政策を実施するために
   A地方自治体への期待

講師 倉阪 秀史 さんのプロフィール
  1964年三重県生まれ、東京大学経済学部経済学科卒業
  1987年環境庁入庁、
   温暖化、リサイクル、企業の環境対策、環境基本法、環境影響評価法などの施策に携わる
  1994〜5年アメリカ・メリーランド大学客員研究員
  1998年から千葉大学法経学部助教授
  最新著書 『環境を守るほど経済は発展する』

 B5版 39ページ 頒布価格500円+送料(82円)

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