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世界の環境教育
塩瀬 治 さん(自由の森学園教諭)
『ごみっと・SUN』 4号・5号より

☆ 社会が育む環境への意識
…… ドイツ・スイス・イギリスの例から
 今年、4月にヨーロッパ環境視察ツアーに参加する機会がありました。ドイツの家電製品を生産する企業と、スイスのスーパーマーケット、イギリスの自然史博物館、ドイツの市議会が計画した都市づくりなどの例から、社会がどのように、人々の環境への意識を変革し、育んでいるのかをご紹介し、私たちがそこから何を学べるのかを考えていきたいと思います。

☆ 企業が育む環境への意識
…… ドイツ、ミーレ社の例から
 1899年に、設立され、洗濯機、冷蔵庫、掃除機などの高い品質性、耐久性を社の目標としました。やや高価だけれど、保ちがいいというのが、ミーレ社製品の特長です。会社をあげて、貴重な資源の保存と廃棄物の抑制に、簡単に言うなら「品質と環境保護」をモットーにしてきました。
 例えば、掃除機を生産する際に使う、電気量、熱量、照明量などのエネルギーは最小限に抑え、使われる資源の鉄、プラスチック、水、本材などはなるべく再利用するような方針が採られています。
 工場内における作業過程に出る物、すべてが、環境に対して害を及ぼさないよう配慮されています。排水は十分に処理され浄化されます。

 また、94年から家電製品にリサイクルシステムを導入し、洗濯機・乾繰機と電気オーブン・皿洗い機などの部品のリサイクル率は、総重量の82〜85%に及んでいます。ドイツ最大の環境企業であるミーレ社は、このよう営業哲学に基づき、具体的には次のような活動を行っています。

● 製品の重さ100kgのうち、82〜85kgを再利用している。(製鉄段階までを考慮すると92kg)

● ミレー製品を運搬するトラックは、菜種油で動く大気汚染のほとんどないバイオディーゼル車

● ムダな輸送をしないで、生産過程もなるべく省エネとなるコンピューターシステムを導入。
  (鉄道輸送の重視、作業のオートメーションン化など)

● 皿洗い機製造では、ここ10年で、1.5倍の生産量をあげ、使用される水量を40%減少させた。

● 工場排水中のニッケル、亜鉛などは分離して、再利用している。
  高度な汚水浄化処理施設を持っている。

● 製品材料には、PCB、カドミウム、水銀などは使われていない。

● 製品の梱包材料のうち、本枠は無加工のドイツ国内の森林資源を活用し、
  プラスチック(主にポリエチレン)は焼却してもダイオキシンは発生しない物を使用。
  ダンボールは100%再利用古紙のもの、発泡スチロールは98%が空気で、
  地下水を汚染せず、生物のすみかをつくるための材料として再利用されている。

● 工場内のプレス機は、それぞれにシェルター壁がつくられ、従来の騒音、
  振動の20%にまで減少。

● 社員に対して随時、環境法、リサイクルなどについて環境教育をおこなっている。

● 1996年に「製品が、廃襲される段階についても企業が、
  その環境へもたらす影響やゴミ処理について責任をもつ」という、循環経済法が制定されたが、
  このすべての基準より厳しい低い基準値をミーレ社は、制定している。

 工場内を視察し(経営責任者の話を聞くうちに、「利益より、最終的には環境が大切」という企業哲学が伝わってきました。ミーレ社は、このような経営方針を社会や、消費者にアッピールし、「ミーレ社なら、環境にやさしい、安心」という高い評価を受け、同時に消費者の環境への意識を育んでいるのだ、という確かな実感を持ちました。

☆ スーパーマーケットが育む環境への意識
…… スイス・ミクロス社の例から
 スイス大手の環境保護型スーパーマーケットのミグロス社は1926年に馬車にせっけん、米、砂糖、小麦粉、パスタ、ココナッ油、コーヒーという当時のニーズに応えた食料品・嗜好品をのせて販売することからスタートしました。経営担当のルーフ氏は次のようなポリシーを紹介してくれました。

A) 中間に小売りを介せずに、生産者から、消費者へ直接橋渡しする。
B) 家族、特に主婦婦を大切にし、直接対話する機会を多く持つ。
C) 会社は、ひとり一人の組合員によって支えられ、運営される。
D) 環境にやさしい、独自の製品、包装システムを開発する。

 補足説明しますと、C)については、第二次大戦で、経営が困窮した際、これを乗り越えるために株利益を全株主に分け与え、これが組合組織の土台になった(現在では、組合員160万人!)そうです。
 特徴的なのは、組合員に製品の価格の割引きなどのメリットがないかわりに、社会、文化活動(コンサートや生涯敷育)などの催じ物の安い入場券、参加料が手に入ることやこれらの情報を載せた新聞が読めるということがあります。
 ミグロス社はこれらの社会・文化活動に多額の補助金を寄付しているからです。

 D)では、例えばコーヒーは豆から栽培し、自社で生産していますし、チョコレートにはアルミニウムを使わず、燃やしても無善なポリエチレンを使っています。ミルクや洗剤、シャンプーなどの容器は詰め替え用の容器も別売し、容器はリサイクルしています。プラスチック!容器は焼却しても害のない物を使い、ペットボトルも繰り返じ再利用します。
 「15年前から、環境にやさしい商品をスローガンにして成功しているが、一部のエコ商品は他商品より割安にさえなっている。これは、消費者の要望をいつも、商品に反映する努力をしているため」だそうです。

 この会社では、消費者の環境に対する意識の高まりをすぐに商品に反映し、さらに消費者の、社会・文化活動や自己啓発活動を助け、ますます環境に対する意識を育むというフィードバックされた経営が見事に生きていました。

☆ 博物館が育む環境への意識
…… イギリス自然史博物館の例から
 イギリス・ロンドン市内にあるこの博物館。開館前から、特に親子連れが長蛇の列を作って並んでいたのですが、その理由が入館してみてわかりました。1881年にこの博物館はオープンしました。
 当時、博物館は見学者が自分の力で学ぶところと考えられていて「カビ臭い中をくたびれて歩き回って、結局なんだかわけがわからない!」と思うのは、博物館が悪いのではないとされていました。

 しかし、博物館はそういう場ではなく、いかにして楽しく夢があって、しかも自然のしくみや知ることの素晴らしさを感覚的に体験できる場であるべきだという動きが、1972年に起こり、現在でも続いています。

 6,500万点以上の標本と100万冊以上の文献、300人の料学者、図書館員がこのプログラムに参加しています。
百聞は一見にしかずなのですが、エコロジープログラムの例をあげます。
入ってすぐに生命に必要な空気、水、土、太陽エネルギーのハイビジョンビデオが数十の画面で放映され、音声放送がされます。
歩き続けていくと、水、炭素、窒素などの循環と生物の食物連鎖が、体系的に筋道のあるストーリーとして展開されていきます。

 模型あり、音響あり、ジオラマありで、よくここまで解りやすく演出され、美的に構成されているものだと、ただ息をのむばかりです。 (プログラム作りには、プロの芸術家、舞台演出家なども多数関わちています。)

 出口に近くなると、人間が自然や生物に対して行ってきた破壊や殺りくが紹介されます。ブルドーザーの実物大模型が、見学者に迫ります。
追りくるパワーシャベルには、一瞬後にオラウータンやナマケモノ、ゴクラクチョウなどの野生生物が写し出され、木々がメリメリと音をたてたり、動物たちの様々な鳴き声も聞こえてきます。
後には血まみれの死骸と、ゴミの山が残り「人間だけが、他の生物の多様性を守れるのです」というフレーズが目に飛び込んできます。

 出口をみると大きく手を広げた緑色の人間の像がそびえたっています。よく見るとこのグリーンマンは色々な生物たちによって形づくられています。(手は貝やヒトデ、足は魚やカメなどというように)
 出口付近でじっとたたずむ子供たちの姿も多く見られます。彼らは難しいところがわからなくても、製作者たちの熱意や投げかける深い問いに、思わずこみあげてくるのを感じているようです。
 これほどに見るものを揺さぶり、考えさせる博物館を私は見たことがありませんでした。

 このようなプログラムは、他に「恐竜」「哺乳動物」「人類生物学」「魚類・両性類・爬虫類」「昆虫・節足動物」「自然界の脅威」「植物の威カ」「進化の過程の人間」「種の起源」「イギリスの自然史」などがあり、そのうちのいくつかしか見学できませんでしたが、同じ感銘を受けました。自然や知の世界のすばらしさについて、それを感覚的にも、精神的にも、よリシンブルでダイレクトに訴えようとする製作者たちの情熱と執念さえ感じました。

 私も教育者の端くれですので、ここまで道筋を立てて解りやすくプログラムしたてり演出したりすることの、製作者たちのすさまじい労力が伝わってきました。
さらにペンギンの羽やニシキヘビの皮など、興味深い標本を直接さわったり、「魚はなぜ浮くのか」「種はどうやって飛ぶのか」というような話し合いを専門家を交えてするディスカバリーセンターもあります。
 ここでは子供たちとの標本を使ったゲームや遊びも企画されています。

 教師センターでは教師への標本の貸し出しや環境教育の情報提供、アドバイなどがされます。驚くべきことに博物館そのものを会合やパーティー会場としてレンタルするサービスもありました。
 そこは、従来の博物館の異次元空間というイメージを打ち壊し、生活する身近な空間に「知」や「自然」の楽しさが感じられる空間でした。
この空間に触れることのできる誰もが、自分の興味に応じた、環境への意識をも育むことができるのだと確信しました。

☆ 行政が育む環境への意識
…… ドイツ・フライブルク市の例から
 ドイツ南西部に位置し、ライン河を隔てスイスとフランス国境に囲まれた、人口19万人の美しい都市、それがフライブルグです。この都市はドイツの中でも特に環境に対する意識が高く、早くから行政が民意を反映しながら、大胆な条例を打ち出してきました。
 フライブルグ市は(独自に都市行政に環境部門を作り、環境保全局、庭園局、営林局、清掃局があります。それらが制定したり、実践してきたものをいくつか、紹介します。

A) 道路の凍結防止用の塩まき、あらゆる場所での殺虫剤の使用禁上、自然復元・他の生物のための空間(ビオトープ、エコトープ)創造の援助。

B) 車通勤や、車公害を減少させるために1991年に「環境定期券」制度を導入
 都市内から近地方に及ぶ約2,600kmの距離での市電、バス、国鉄の利用を月49マルク(約3,900円)で乗り放題となる定期券システムである。「他人に貸しだし可能」で日・祭日には、さらに大人1人、子供4人まで一緒に乗れる。このシステムで車利用者が、画期的に減少した。(全利用者の10%減少)

C) 旧市内は車の進入禁止。駐車場を減らし、路上での駐車は住民のみに限定と駐輪場を増加。

D) ゴミ処理については、「まずなるべく出さない、次に再利用、そして無害にして捨てる」方針をとる。あらゆる場所での使い捨て容器の使用繁止。
学校や幼稚薗と連絡を取り、環境教育プログラム(上記の方針にそったもの)を推進、ゴミ問題を扱った劇団の公演の案内、ゴミ処理カレンダーの作製。紙、プラスチック、ガラス瓶、金属、布などを仕分けし、リサイクル会社へ送る作業の徹底。

 リサイクルできない、生ごみ、家庭ごみをコンポストにいれ、農業肥料として再利用する。建設廃棄物のうち、本材、プラスチック、金属は取り除かれ、リサイクルにまわし、残りのコンクリート、ガレキなどは、仕分けして砕いて、農業、薗芸用の細かい土や、遺路建設用に再利用する。ゴミの焼却は禁止と生ごみや堆肥から生じるメタンガスで、人口9,000人の地域暖房、発電に成功する。

E) 原子力エネルギー利用に反対。上記の例や、太陽エネルギー、水力発電などで、80%の自給プランをつくる。世界初の太陽エネルギーのみによる、電力や採光、冷暖房などの自給自足ハウス(ソニラーアルタルキーハウス)の研究を援助。
などあげられます。環境先進国といわれるドイツの中の全都市で最も優れたエコポリスに1992年指定されているのが、わかる気がします。

 行政が、「大きなデメリットがあっても、車を使うのか」 「ごみを出し続けてもいいのか」といった市民の生き方の問題にまで、大胆な条例を発布し、激しい賛否両論の中で市民の意識を聞う、フライブルク市の実践例は、結果的に非常に高い環境意識を持つ市民を育む事に成功したものです。
 今回の視察で痛感するのは、もはや利潤追求ではなく、どう生きるのかという生き方の追求の時代を迎えているということです。

 環境教育は、社会がどういう生き方、どういう社会をめざそうとするのかを、その根本に持っていないと、目的が暖昧になるようです。学校で「資源を大切にしましょう」 「ゴミをリサイクルしましょう」「自然を大切にしましょう」という環境教育の目的が大切にされますが、社会がこうした実態やしくみを持っていなければ、それは砂上の楼閣のようなものです。

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