市民ごみ大学 セミナー 2000 実施報告
第 3 回

 「企業から変えるスウェーデンのごみ・環境政策」

〜ナチュラルステップの実践を通して〜

開催日 2000年12月 2日
講師 レーナ・リンダルさん(スウェーデン環境ニュース発行人)

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 講師のレーナ・リンダルさんは30代の若さながら、地球環境国際議員連盟事務局長、スウェーデン社会研究所研究員という経歴を持ち、現在はスウェーデン環境ニュースを発行しながら、日本とスウェーデンの環境政策の調査、報告活動に従事されているだけあって、両国の確かな分析とわかりやすいお話は、参加者に大変好評でした。

         

 


NPO<ナチュラル・ステップ>の誕生

 ナチュラル・ステップとは自然な一歩、自然のための一歩と捉えてもよい。1989年、カール・ヘンリク・ロベール博士によって設立された環境保護団体。
 当時、スウェーデン国内では水の汚染やダイオキシン問題で環境意識が高まり、緑の党も初めて国会に入った。ロベール博士は小児がんの治療にあたっていた医者だったが、根本的な解決のためには社会を健康な方向に変えていかなければならないと、医者をやめ、この活動に入った。
 まず、社会全体を変えていくためには、企業や行政といった大きな組織に、その専門知識を使って、抱えている問題に取り組んでもらう必要があると考え、対立するのではなく信頼する運動を起こそうと、合意=持続可能な社会のための次のような4つの基本原則をまとめた。そしてこれを国民に理解してもらうために、冊子とカセットテープをスウェーデンの全ての家庭と学校に送り、教育プログラムを作った。


4つの基本原則
 @地殻から取り出した物質が、生物圏の中で増え続けない
 A人工的に作られた物質が、生物圏の中で増え続けない
 B自然の循環と多様性が守られる
 C人々の基本的なニーズを満たすために、資源が公平かつ効率的に使われる 

 かってのスウェーデンがそうだったように、問題が目の前に山積し、共有する目標がないので、ぶつかりあって前に進まないというのが日本の現状。
 4つの基本原則を共通の羅針盤として市民、行政、企業が同じ方向に向かうと効果が倍増する。ナチュラル・ステップは問題点を指摘して批判する形は取らず、自発的に気づくよう指導している。日本人は事例を求めたがるが、どこに問題がありどうすればよいかを自ら考え行動することが大事。

 

こんな企業のこんなナチュラルステップ

ナチュラル・ステップの考えを環境経営に取り入れた企業の事例をみてみよう。

● ソンガ・セ−ビホテル
 世界的に有名なエコホテル。北欧で初めての公式エコマーク「白鳥マーク」認定。ISO90002、ISO14001取得。 化石燃料を使用しないで100%自然エネルギー(湖底の熱回収、菜種油、水力発電、太陽熱)を利用など。

● スウェーデン・マクドナルド社
 ごみ分別の徹底。エコ牛乳、エコ牛肉を支援。協力企業や下請け業者もナチュラル・ステップの環境教育プログラムに参加。

● エレクトロラックス社
 フロンを使わない冷蔵庫。99年11月から7,000世帯を対象に、洗濯機の販売ではなく洗濯する機能を売る実験をスタート。

 

大切なのは自然循環型社会

 循環型社会を目指すとよくいわれるが、この「循環」とは経済循環や資源循環をいうのではなく、「自然循環」ではないだろうか。水、空気、栄養などの自然循環があって、これを破壊しないでその循環の中に人間社会を組み込むこと。
スウェーデンは国民投票で原発廃止を決め、1基が廃止された。


自然循環型社会の生活って
 ● 暖房はセントラルヒーティングが一般的だが、この燃料に木質ペレットを使う
 ● 庭にタンクを埋め、室内から庭まで水を循環して使う
 ● 分別トイレ。前が小、後ろが大と仕切った便器で、栄養価の高い小は農家が使う  
 ● 食品のエコマーク「KRAV」
   エコ牛乳、エコ牛肉
 ● 自家用車からバスに乗り換える、駐車場をバス会社が設置

 

福祉国家から環境国家へ

 スウェーデンは福祉国家として有名だが、水や緑や空気が汚れていては本物の福祉ができないというわけで、国もあたりまえのように環境政策に力を入れている。特に1996年以来、政治目標として「持続可能な社会の構築」を掲げ、実現のために大プロジェクトを始めた。
 さらにEUに加盟し、欧州委員会の担当には若い女性が選ばれた。2001年1月からは議長国となるが、福祉、男女平等、環境に力を入れてやっていく。
 「持続可能な経済のため」に資源循環型社会を目指す日本政府。かたや、目指すべきは「持続可能な社会の実現」であり、人間は自然の法則から免れて生存できないことを理解し、企業も含めて環境問題に対する合意ができ上がっているスウェーデン。その違いが際立つお話の内容となりました。

 しかし、企業にとっても環境に配慮し、問題を解決しないとコストにもはねかえってくる時代になってきたので、メディアや市民団体が世論を動かし、情報公開させていくことで、企業も変わらざるを得ない状況になりつつあります。
 羅針盤ともいうべき基本原則をもとに、あるべき姿に向かって改善するのはもしかしたら真面目で几帳面な日本人には向いているのかも知れません。
 ナチュラル・ステップの理念や取り組みから、たくさんのヒントをもらいました。


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