フランス・ドイツ・韓国の最新ごみ事情

1、日本のごみ事情

日本のごみ処理の歴史
 海外の話をする前に日本のごみ処理事情について、簡単に説明したい。
日本は大量生産、大量消費、大量廃棄の時代から、循環型社会、あるいは3R(リデュース、リユース、リサイクル)に方向転換している。
今まではごみ処理やリサイクルに力を入れてきたが、今後はリユース、発生抑制に力を入れる必要がある。

 これまで日本では上流で製品がどんどん作られる一方で、自治体は衛生的に処理しなければいけないという事で、ごみを焼却したり、埋め立てたりしてきた。
だが、プラスチックごみが増えて、焼却や埋め立てが立ち行かなくなった。
プラスチックは燃焼カロリーが高く、炉を傷め、ダイオキシンなどの有害化学物質を発生させる。
排出を抑制するために、公害防止装置が必要になっている。
また、埋め立てても自然分解しないため、処分場の逼迫という問題も起こった。

 「簡単便利」という事でプラスチック容器包装がどんどん作られる一方、自治体では、バグフィルターなどの公害防止装置を設置するために億単位の税金を投入して焼却施設を建設してきた。
環境基準を何とかクリアしようと、焼却や埋め立てにお金と技術を投入してきたのが90年代のごみ処理行政といえる。

 これではいけない、生産者に責任を負わせなければ、という事で、EU圏などを中心に拡大生産者責任(EPR)という考え方が広まった。
日本でも容器包装を初めとして、自動車、食品などのリサイクル法など、事業者が作りっぱなしではなく、処理やリサイクルに責任をとらせるための法整備が始まった。

 「ごみ処理やリサイクルのお金は誰が払うのか」ということでいえば、納税者負担から、事業者・消費者負担にする。
つまり、ごみ処理の費用を製品価格に内部化して、受益者が負担していくようになれば、事業者はリサイクル費用を減らそうとして簡易包装にしたり、リサイクルし易い容器包装を作るようになる循環型社会を目指すには、廃棄物ではなく、循環資源と捉えていく必要がある。

プラスチック処理の現状
 自治体でのプラスチック処理は3つに分類できる。
  @可燃ごみとして収集・焼却
  A不燃ごみとして収集、埋め立て
  Bプラスチック容器包装を資源化(06年度)966自治体

 現在東京23区は廃プラスチックの扱いをAから@に移行しようとしている。
プラスチックごみの中で容器包装の占める割合が8〜9割。
寿命が短く、毎日ごみとして排出される容器包装プラスチックは、95年に制定した容器包装リサイクル法に則り約5割の自治体で分別回収している。
容器包装以外の廃プラスチックは焼却したり埋め立てたりしている。

 だが、板橋区はペットボトル以外のプラスチック容器包装等を燃やす予定だ。
23区中10区はプラスチック製容器包装を資源化する予定である。
容器包装は、家庭ごみの重量比では4分の1、容積比で60%にもなる。
嵩張るため空気を運ぶようなものとも言われ、自治体の収集費用がかかる。確かに収集費用は大きな問題だが、23区は全国約1,800の自治体の中でも人口密度も高く、収集コストも地方に比べれば、かからない。
全国的にみても、多くの容器包装を集められる状況にある。

 環境省は、「資源化できない廃プラスチックは埋め立てないで燃やそう」という方針を示している。
杉並区や品川区のように、プラスチック製容器包装を資源化し、それ以外のプラスチックを焼却するべきではないか。
多摩地域は、30自治体の内、14自治体がすべてのプラスチック容器包装を収集。一部収集している12自治体のうち、6自治体も対象容器を拡大する方針を出している。
事業者責任を拡大するためにも容器包装の分別収集が望まれる。

2、リサイクルは進んだが、新たな課題を抱えるドイツ

容器包装のリサイクルシステム・DSDシステム
 ドイツは、日本と違い、事業者が容器包装の回収やリサイクル費用を負担している。自治体と、製造・販売者のルートの2つで回収されている。
ヨーグルト容器や缶、プラスチック容器などすべての容器包装はゲルベザックという黄色の袋で、に入れて出すことになっている。
事業者がリサイクル費用を払った印に、グリューネプンクト(緑の点)というマークがついている。
商品のリサイクル費用が内部化されているということである。

 1991年に包装廃棄物規制令が制定され、容器包装を収集してリサイクルするために事業者が出資してDSD社という会社をつくった。
ただし、25%は税金で賄っている。ドイツの政策はすばらしくても、市民が完璧に分別するのは難しい。
マークのついていない物も容れられていることを見込んで、25%は税金で負担している。

 事業者が支払う容器包装のマーク使用料はガラスびん7.6セント、紙18セント、缶28セント、プラスチック容器包装は1キログラム135セント。
プラスチックは素材が単一でなく、リサイクル費用が高いので、その分、マーク使用料も高くなっている。
面積、容積によって使用料が違ってくるので、簡易包装、容器包装の簡素化が行き渡っている。

 包装廃棄物規制令では、リサイクルすれば良いというものではなく、リユースも重視している。
リユース率が72%以下になったらワンウェイ容器に強制的にデポジットをかけるとしていた。
リユース率が下がったため、2003年に強制デポジットが導入された大手スーパー業界はデポジット対策として販売するワンウェイのペットボトルに店ごとのICチップをつけて、どこの店でも返せるようにした。
大手のスーパーには飲料容器回収機が備え付けてあり、その裏側に回ると、自治体のリサイクルセンターにあるようなベルトコンベアを空き瓶などが流れるようになっている。
従業員が地ビールメーカーごとのコンテナに詰めて引き渡し、瓶をリユースするという訳だ。

 デポジット金額は、使い捨て容器25セント、リユース容器は15セントと差をつけているが、中身はリユース1リットル、53セント、使い捨て1.5リットル、55セントなので使い捨ての方が安いため、使い捨てを選んでしまう人もいるようだ。
また、自分の家で出しても、スーパーに返しても、どちらでも良いので、返しに行くのが面倒な人は、デポジット金は要らないからといってゲルベザックで出す人も少なくない。
強制デポジットを導入してもリユースを復活させるのは難しいようだ。
また、缶飲料が無くなって、ペットボトルが増えたり、日本では解禁されていないペットボトルのビールも売っていたり、意外だった。

 レジ袋を規制する法律は特にないが、事業者は経費がもったいないので、無料で配らない。
レジ袋は商品なのでバーコードがついている。小さなポリエチレンの薄い袋は無料。
DSDの下請けのアルバ社では大量に回収したプラスチック容器包装の分類をしている。手選別のあと、自動選別機でPE,PP,PS,PETの素材ごとに分類する。

 また、自治体には市民が粗大ごみ、家電、剪定枝、ペンキ、有害物質などを持ち込める「リサイクリングホフ」があり、そこで中古の家具等を買うこともできる。

有機物の埋め立て禁止
 1995年に、一般廃棄物技術指針が改正され、メタンガスの発生や地下水汚染を防止するという理由で、処分場に埋め立てる場合は有機物が3〜5%未満でないといけない、つまり、生ごみの埋め立てが禁止になった。

 自治体の対応は2通りである。
  @プラスチック容器包装は分別した上での焼却とエネルギー回収(給湯、床暖房)58施設
  A機械生物分解処理(MBA、機械選別+バイオガス化・堆肥化・焼却20施設

 Aを選んだハノーファー郡と近接20州(110万人)の広域事業体(AHA)では、機械選別(水に入れて比重分別)、生ごみなど有機物をタンクで発酵し、発生したメタンガスで発電、(バイオガス化)し、残ったものは堆肥化施設で堆肥化している。
30万トンの埋め立て量を7万トンに減らす予定だが、トラブルもあり、当時は85%の稼働率だった。

 @を選んだ、ハンブルグ市(172万人)と近郊自治体では、MVB社が焼却施設の建設・運転・管理をしている。
焼却といっても日本とは違う。熱回収率は60%と、日本の10%程度と比較して高い。
また、150万トン発生するごみの内、90万トンをリサイクルし、残りの生ごみ等60万トンを焼却している。
さらに、年間2.5万トン処理できる生ごみコンポスト施設、2万トンのバイオマス発電施設を稼動する予定。
ドイツでは焼却灰を道路の路盤材などに利用し、飛灰は岩塩の掘削跡地で保管している。

 リサイクルはDSD社が独占していたため、リサイクル費用が高く批判されていたが、近年になってクリーンウェイ社、ランドベル社という他の業者が出て、やっとDSDの独占体制が崩れ始めている。
廃ペットボトルはほぼ全量を中国などに輸出している。プラスチック容器包装のリサイクルは66%がマテリアルリサイクル、34%が高炉、セメント等のサーマルリカバリーとなっている。

3、焼却中心からリサイクルへ、転換を模索するフランス

容器包装のリサイクルシステム・エコアンバラージュ
 フランスでは、廃プラスチックはボトル類のみをリサイクルし、残りは自治体で処理している。
ただし、収集・保管費用の5割は中身メーカーである事業者が支払ったマーク使用料で賄っている。
プラスチックは有価で売却できる缶、びん、プラスチックボトル、段ボール、紙パックに限定しているため19%と資源化率は低い。
他のプラスチック製容器包装は自治体で焼却している。

 パリの近郊にはびんボックスが設置してあるが、市民の意識は低いためか、あまり利用されていない。 外国人が多いことも要因のひとつといえる。回収ボックスの中が、らせん状になっていて、ワインなどのびんが割れない様に容れられる。
EU圏ではリサイクル率が決められているため、フランスはガラスびんでリサイクル率を高めようとしている。
パリ市は観光客も多く、路上のごみがかなりの比重を占めている。レジ袋は無料でほとんどの人がもらっている。

パリ近郊の巨大な清掃工場
 パリ市と84市町村が構成する広域事業体(SYCTOM)では、550万人分のごみを3つの巨大な焼却施設で処理している。その1つがイブリー市にある。
フランスのごみ処理政策の特徴はサーマルリカバリーである。
年250万トン出るごみのうち、200万トンを焼却している。熱回収率は70%と高く、10万世帯に給湯している。
分別が十分でないため焼却灰に缶などが混入しているため、磁石で鉄などを回収してリサイクルしている。

 イブリー市は外国人が多いこともあり、無分別のごみが回収ボックスにあふれていた
。パリ市と84自治体での 1日 1人あたりのごみ量は1,160グラム、一方で資源量は137グラムと少ない。
10年間でごみが2割も増えている。焼却からリサイクルにシフトして30万トン減そうと計画をしている。
07年度中には15区に紙のリサイクル工場を作る予定。
一方、イッシー市は高級住宅街で、ごみの分別が進んでいて、ボックスの中もきちんと分別されていた。
リサイクル選別施設では古紙、紙パック、プラスチックボトル、缶、段ボールはリサイクル業者に販売している。

 今、イッシー市では日量1,200トンの焼却施設を2基、建設中である。
フランスでも焼却施設の建設は困難な状況で、国会議員でもある環境派の市長が大きさを縮小し、公害防止対策など環境に最大限配慮した最新設備という条件で引き受けた。
3分の2を地下に埋め込み、表面を緑化し管理棟で周りを取り囲む。建設コストは800億円ということだ。
また、パリ市からごみ1トン当たり3ユーロの処理費用をもらう。セーヌ川を利用して焼却灰を船で運ぶ。
75,000キロワット /時発電し、発電効率や熱回収率も高い。

4、ごみ減量・リサイクルへ、新しい政策を進める韓国

ドイツを参考にした事業者責任制度
 韓国では、2003年にドイツ方式を取り入れた事業者責任制度(EPR制度)を制定した。
紙パックやプラスチックなどの容器包装だけではなく、家電や蛍光灯なども含めた18品目に関わる13業界団体が収集とリサイクル費用をすべて負担し、容器包装は自治体回収、家電は事業者回収している。
資源化率の目標値を掲げ、年々数値を上げてリサイクルを向上させている。全体の生産量に対する回収率の目標は68.4%、容器包装ではプラスチックが50%、紙製容器27%などと決めており、下回ると課徴金を課せられる。

使い捨てを規制
 また1994年に使い捨て製品を規制する「1回用品規制」が制定された。
レジ袋もデポジットになって、50%減少した。レジ袋は有料で売られており、買った場合でも店に戻すと50ウォン、約4.5円返金される。
ファストフード店、コーヒーチェーン業界は、店内での飲食はリユース容器であるマグカップなどを使用。
テークアウトの場合は紙コップなど持ち帰り容器に50ウォンのデポジットをかけて、自主規制している。
ホテルのハブラシなども禁止。不履行の店を知らせるとお金が貰えるようにして制度を徹底させようとしているが、守っていない小さな店もあり、途上といえよう。

ごみが足りない焼却炉
 1990年代、ワールドカップ会場の隣にあったごみ処分場にごみや焼却灰が100メートルも積み上げられ、底から浸出水が出て、大変な環境汚染になった。
そこで、ソウル市は25区全区に焼却施設を作ろうという「自区内処理」政策を打ち出した。
しかし、大反対運動が起き、水際でストップされた。リサイクルに方向転換することに決め、4施設だけ建設した。

 その1つである江東区の焼却場では、住民の抵抗が強く、周りの区のごみを入れられないということで、稼働率が18%だった。
赤字分はソウル市が区に補填している。市の補填は98億円に上っており、その後、打ち切ったため周辺の区のごみも受け入れる方向にある。
江東区のごみ量524トンのうち、生ごみの資源化量は106トン、その他の資源は195トンで、焼却や埋め立て量は223トンで、55.1%という高いリサイクル率だ。
韓国は急に埋め立てから焼却に変更したが、反対運動をきっかけに脱焼却・リサイクルに向かっている。

段階的な値上げで効果をあげる有料化
 1995年から家庭ごみは従量制(有料化)を導入している。
20リットル、21円程度で、ごみ処理費用の約70%を賄っている。
ただし、減量効果が薄れるのを防ぐため、金額を上げている。
ソウル市では、20リットルで270ウォンから350ウォン(約30円)、釜山市280ウォンから810ウォンに上げている。(100ウォン=8円)。
この結果、ごみ量は1994年から2004年の間に 1人 1日当り 1,330グラムから1,030グラムと300グラムも減っている。

生ごみのリサイクル
 生ごみは2005年に埋め立てを禁止、飼料化、堆肥化している。排出用の黄色の袋は無料になっている。
ソウル市郊外にはまだ養豚農家も多く飼料化が中心になっている。
ただし、生ごみをリサイクルする場合は、収集時の袋の破れや臭いの問題があり、日本で導入する場合もその対策が課題である。
ソウル市内から出る 1日3,200トンの生ごみは250カ所の工場で、1,800トンが飼料化、1,200トンが堆肥化されている。

 2006年からバイオガス発電施設を建設しており、2〜3年後には 1日400トン処理できる施設が2施設稼動する予定だ日本のリサイクル率は全国平均19%(05年度)、韓国は49.2%。
生ごみのリサイクルと可燃ごみの有料化との両政策によりリサイクル率を高めている。日本でも見習うべき方向と思う。

 韓国は携帯電話やコンビニなども普及して日本とほとんど変わらない状況にある。
だが、ごみに関する制度は日本より進んで、ドイツに近づいている。
焼却を減らして資源化を進めることで、ごみが減っている。

 外国の事例なので、そのまま日本に置き換えるわけにはいかないが、板橋区のごみ処理の方向を考えるきっかけにしてほしい。


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